反目状態にあった男とのけんか抗争等に備える目的で自車のダッシュボード内に入れておいた刃物を車外に持ち出した後に路上で携帯する行為は,同人運転の自動車に意図的に衝突されて自車が転覆し,車外にはい出す際に護身用にズボンのポケットに上記刃物を移し替えたという事情があることを考慮しても,その違法性が阻却される余地はない。
反目状態にあった男の運転する自動車に意図的に衝突されて自車が転覆したため同人とのけんか抗争等に備える目的で自車のダッシュボード内に入れておいた刃物を護身用にズボンのポケットに移し替えて自車からはい出した後に路上で携帯する行為について違法性が阻却されないとされた事例
刑法35条,刑法36条1項,銃砲刀剣類所持等取締法22条,銃砲刀剣類所持等取締法32条4号
判旨
激しい反目状態にある相手との抗争に備えて自動車内に刃物を隠匿していた場合、その後に相手の攻撃を受けて護身用に当該刃物を身に付けたとしても、一連の不法な携帯行為の一部と評価され、違法性は阻却されない。
問題の所在(論点)
抗争目的で車内に準備していた刃物を、相手方の攻撃を受けた際に護身用として身に付けた行為(携帯)について、正当防衛等による違法性阻却が認められるか。
規範
銃砲刀剣類所持等取締法22条柱書にいう「業務その他正当な理由」の有無は、携帯の態様、時間、場所、刃物の形状・性能、携帯の目的、必要性等の諸般の事情を総合的に考慮して判断される。当初から対立相手との抗争に備える等の不法な目的で刃物を準備・所持していた場合には、その後の携帯行為も一連の不法な携帯の一部と評価され、緊急的な護身の必要性が生じたとしても直ちに違法性が阻却されるものではない。
重要事実
被告人は、反目状態にある男性との抗争に備える目的で、刃体の長さ約11cmの加工された刃物を自動車のダッシュボード内に隠匿していた。走行中、当該男性の車両に衝突され自車が転覆した際、護身用に当該刃物をズボンのポケットに移し替えて車外に出た。その後、ゴルフクラブを所持した男性と怒鳴り合う状態になったところを、警察官や通行人に制止され、刃物の不法携帯により現行犯逮捕された。検察官は、この警察官が現認した時点(ポケットに入れていた時点)の携帯を訴因とした。
事件番号: 平成5(あ)728 / 裁判年月日: 平成8年2月13日 / 結論: 棄却
刃渡りが約三三センチメートルで、片面に鋭利な刃が尽けられた鋼鉄製の刀身が柄に目釘で固定され、和包丁の特徴である俗にアゴと称される段差が?(はばき)により完全に覆い隠されているなど判示の形態、実質を備える本件刃物は、包丁儀式に使用するものとして所持されていたとしても、銃砲刀剣類所持等取締法(平成三年法律第五二号による改正…
あてはめ
被告人は当初から「けんか抗争等に備える目的」で本件刃物を車内に隠匿しており、この時点ですでに不法な刃物の携帯に該当する。その後の転覆事故をきっかけに護身目的でポケットに移し替えたとしても、それは先行する不法な携帯行為と一連のもの、あるいはその延長線上にある「一部」と評価するのが相当である。したがって、切迫した危険に対処するためという側面があるにせよ、当初の不法な目的と携帯の経緯を鑑みれば、本件訴因時点での携帯行為に違法性が阻却される余地はない。
結論
本件刃物の携帯について、正当防衛等による違法性阻却は認められず、銃砲刀剣類所持等取締法違反が成立する。
実務上の射程
自招危難や予期された侵害における対抗行為の違法性阻却を制限する判断枠組み。特に銃刀法違反において、侵害の急迫性のみをもって「正当な理由」を認めるのではなく、携帯の開始時点からの主観的・客観的経緯を重視して「一連の行為」として評価する手法は、実務上、護身目的の抗弁を排斥する際に極めて有効なロジックとなる。
事件番号: 昭和61(あ)782 / 裁判年月日: 平成元年11月13日 / 結論: 破棄自判
年齢も若く体力にも優れた相手方が、「お前、殴られたいのか。」と言って手拳を前に突き出し、足を蹴り上げる動作をしながら目前に迫ってきたなど判示のような状況の下において、危害を免れるため、菜切包丁を手に取ったうえ腰のあたりに構えて脅迫した本件行為は、いまだ防衛手段として相当性の範囲を超えたものとはいえない。
事件番号: 昭和57(あ)1914 / 裁判年月日: 昭和58年3月25日 / 結論: 棄却
自己が約二週間前まで同棲していた女性のマンション内において、その台所から持ち出した包丁を同女と関係を持つた男性の前頸部に突きつけるなどして同人に慰藉料の支払方を承認する文書を作成させたり、同女の頭部を右包丁の峰で殴打したりし、その間ある程度の時間継続してこれを手に把持していた本件行為は、たとえその場所が自己と長年同棲し…
事件番号: 平成16(あ)807 / 裁判年月日: 平成17年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴力団組長が、同行する配下組員らの拳銃等携帯を概括的・確定的に認識・認容していた場合、実質的にこれらを持たせていたと評し得、拳銃等の所持について共謀共同正犯が成立する。 第1 事案の概要:暴力団の組長である被告人が、移動に際して配下の組員らを同行させていた。その際、一部の組員らが被告人を警護する目…
事件番号: 平成17(あ)1319 / 裁判年月日: 平成19年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が警察官から連行されそうになった際、これを免れるため、所持していたアタツクナイフ(刃体の長さ約12.2センチメートル)を振り回し、警察官らに突き付けて抵抗した行為は、刑法95条1項の公務執行妨害罪における「脅迫」に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、警察官らから無理矢理連行されそうになっ…