自己が約二週間前まで同棲していた女性のマンション内において、その台所から持ち出した包丁を同女と関係を持つた男性の前頸部に突きつけるなどして同人に慰藉料の支払方を承認する文書を作成させたり、同女の頭部を右包丁の峰で殴打したりし、その間ある程度の時間継続してこれを手に把持していた本件行為は、たとえその場所が自己と長年同棲し別居後間のない女性のマンション内であり、また当時両名の関係がいまだ完全には解消されていなかつたとしても、銃砲刀剣類所持等取締法二二条にいう刃物の「携帯」にあたる。
銃砲刀剣類所持等取締法二二条にいう刃物の「携帯」にあたるとされた事例
銃砲刀剣類所持等取締法22条,銃砲刀剣類所持等取締法32条3号
判旨
銃砲刀剣類所持等取締法22条にいう「携帯」とは、自宅等以外の場所で刃物を自己の身辺に置くことを指し、元同棲相手の居宅であっても、刃物を手に保持し一定時間継続した場合はこれに該当する。
問題の所在(論点)
銃砲刀剣類所持等取締法22条にいう「携帯」の意義。特に、元同棲相手のマンション内という半ばプライベートな空間において包丁を手に保持し続けた行為が「携帯」に該当するか。
規範
銃砲刀剣類所持等取締法22条の「携帯」とは、自宅又は居室等以外の場所において、刃物を自己の身辺に置くことをいう。その場所が知人等の居宅であっても、管理権を持たない場所において刃物を手に把持し、その状態がある程度の時間継続した場合には「携帯」に該当する。
重要事実
被告人は、約2週間前まで同棲していた女性のマンションにおいて、台所から持ち出した包丁を手に把持した。被告人は、当該包丁を女性と関係を持った男性の頸部に突きつけて慰謝料の支払を承認する文書を作成させ、また女性の頭部を包丁の峰で殴打するなどした。被告人と女性の関係は完全には解消されていなかったが、被告人は当該包丁を手に把持し続け、その状態は一定時間継続した。
事件番号: 昭和29(あ)1895 / 裁判年月日: 昭和31年12月28日 / 結論: 棄却
刃渡一五糎未満の七首を所持することは許されている場合、それを居宅内で所持する者が、その居宅内でこれを擬して他人を脅迫したからといつて、銃砲刀剣類等所持取締令第一五条(昭和三〇年法律第五一号による改正前の規定)にいう七首の携帯の所為にあたらないものと解するのが相当である。
あてはめ
被告人が包丁を把持していた場所は、2週間前まで同棲していた女性のマンションであり、被告人自身の自宅や居室ではない。また、被告人と女性の関係が完全に解消されていなかったとしても、被告人が当該場所の正当な管理権を有しているとはいえない。さらに、被告人は脅迫や暴行の手段として包丁を手に把持しており、その状態がある程度の時間継続している。したがって、公共の安全を害するおそれのある状態で刃物を身辺に置いたものと評価できる。
結論
被告人の行為は、銃砲刀剣類所持等取締法22条にいう「携帯」にあたる。
実務上の射程
「携帯」の概念が、単に路上等の公共空間だけでなく、他人の居宅内における所持にも及ぶことを示した。答案上は、場所の性質(自宅か否か)と、保持の態様・継続性に着目してあてはめるべきである。特に「居宅内であれば携帯にならない」という反論に対する再反論として有用である。
事件番号: 平成15(あ)163 / 裁判年月日: 平成17年11月8日 / 結論: 棄却
反目状態にあった男とのけんか抗争等に備える目的で自車のダッシュボード内に入れておいた刃物を車外に持ち出した後に路上で携帯する行為は,同人運転の自動車に意図的に衝突されて自車が転覆し,車外にはい出す際に護身用にズボンのポケットに上記刃物を移し替えたという事情があることを考慮しても,その違法性が阻却される余地はない。
事件番号: 昭和28(あ)708 / 裁判年月日: 昭和28年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】銃砲刀剣類所持等取締法(本判決当時は旧銃砲火薬類取締法等)における「所持」とは、物を自己の支配し得べき状態に置くことをいい、他人から預かって持ち運ぶ行為もこれに含まれる。 第1 事案の概要:被告人は、拳銃1挺および拳銃実包4発を他人から預かり、これを持ち運んだ。弁護人は、このような一時的な預かりや…
事件番号: 昭和29(あ)2250 / 裁判年月日: 昭和31年7月4日 / 結論: 棄却
厚判決が刀剣類の不法所持と殺人未遂との間には通常手段結果の関係にあるとはいえないから、本件短刀の不法所持と殺人未遂とを牽連犯と認めることはできないとして、これを併合罪として処断したのは正当である。
事件番号: 平成17(あ)1319 / 裁判年月日: 平成19年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が警察官から連行されそうになった際、これを免れるため、所持していたアタツクナイフ(刃体の長さ約12.2センチメートル)を振り回し、警察官らに突き付けて抵抗した行為は、刑法95条1項の公務執行妨害罪における「脅迫」に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、警察官らから無理矢理連行されそうになっ…