正当防衛の成否及び量刑について補足意見が付された事例
刑法36条,刑訴法411条2号
判旨
防衛行為が時間的・場所的に連続する一連のものである場合、その一部に侵害の急迫性が認められない状態が含まれていても、行為全体を一個の防衛行為として捉え、その過剰性を判断すべきである。
問題の所在(論点)
時間的に連続して行われた一連の防衛行為について、その一部において侵害の急迫性が失われていた疑いがある場合に、行為を分割せず全体として一個の防衛行為と捉えて相当性を判断すべきか。また、その場合の過剰防衛の成否が問題となる。
規範
被告人の一連の行為が、ごく短時間のうちに行われたものであり、その間に相手方が攻撃を中止した状態が存したと認めるに足りる証拠がない場合には、当該一連の行為を全体として一個の防衛行為と捉える。その上で、その全体が正当防衛として許容される範囲内にあるか否か(相当性)により、過剰防衛の成否を判断する。
重要事実
被告人は友人関係にあるAから、いわれのない激しい暴行を受けた上、包丁を突きつけられた。これに端を発し、被告人は包丁でAの胸部を刺突した。その後、Aが「もういい」と発言して被告人が攻撃を止めるまで、多数回にわたりAの頸部を刺切した。この一連の行為はごく短時間で行われ、その間にAが攻撃を中止した明確な形跡はなかった。
あてはめ
被告人の刺突行為から攻撃中止までの行為は、短時間のうちに行われた一連のものである。Aが途中で攻撃を中止した事実も認められないため、行為を分割せずに全体として把握する。被告人は確定的殺意に基づき、頸部を多数回刺切するという強度の態様で反撃しており、Aによる先行の侵害行為(包丁の突きつけ等)と比較しても、防衛の手段として相当な範囲を超えている。したがって、一連の行為全体として過剰防衛に該当すると評価される。
結論
被告人の一連の行為は全体として一個の防衛行為と評価されるが、その態様の過剰さから正当防衛の範囲を超えるため、過剰防衛(刑法36条2項)が成立する。
実務上の射程
本件は、一連の防衛行為における「行為の単一性」を肯定し、その全体について相当性を判断する枠組みを示している。答案上では、反撃行為が複数回に及ぶ場合、それが中断のない一連の心理的・物理的状態下にあるかを検討し、全体として過剰性を判断する際の根拠として用いる。特に、急迫不正の侵害が継続している最中に行われた「やりすぎ」の事案において、第一、第二行為と分断せずに処理する手法として重要である。
事件番号: 昭和43(あ)1546 / 裁判年月日: 昭和43年11月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】一連の暴行の経過において、特定の行為が別個の意思発動に基づくと認められる場合には、全般的観察だけでなく瞬間的部分的な攻防の態様も考慮して、過剰防衛の成否を個別に判断すべきである。 第1 事案の概要:被告人は被害者から再三にわたる執拗な暴行を受けていた。その経過において、被告人は計3回の絞頸行為を行…
事件番号: 昭和57(あ)648 / 裁判年月日: 昭和59年1月30日 / 結論: 破棄自判
相手方から一方的に暴行を受けた被告人が、帰寮後も憤まん収まらず、いつたんは木刀を手にして相手方と対峙し同人を難詰したものの、同僚の説得に従い、話合いをするため木刀を投げ捨てその場を離れたにもかかわらず、予期に反して相手方がいきなり右木刀を拾い上げ攻撃してきた本件事実関係のもとにおいては(判文参照)、右攻撃は刑法三六条に…
事件番号: 平成28(あ)307 / 裁判年月日: 平成29年4月26日 / 結論: 棄却
行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきであり,事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況…