弁護士資格等がない者らが,ビルの所有者から委託を受けて,そのビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除した上で各室を明け渡させるなどの業務を行った行為については,その業務が,立ち退き合意の成否等をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであって,弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものというべきであり,その際,賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いをしていたなどの本件における具体的事情(判文参照)の下では,同条違反の罪が成立する。
弁護士資格等がない者らが,ビルの所有者から委託を受けて,そのビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除した上で各室を明け渡させるなどの業務を行った行為について,弁護士法72条違反の罪が成立するとされた事例
弁護士法72条,弁護士法77条
判旨
弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」とは、訴訟事件等に準ずる程度に法的紛議が生じることが不可避な案件を指す。ビルの全賃借人の立ち退き交渉業務は、期間満了前で立退意向のない者に対し賃貸人側の都合で交渉する以上、法的紛議が不可避な案件に当たり、これを非弁護士が報酬目的で業として行うことは同条に違反する。
問題の所在(論点)
権利義務関係に未だ直接の争いがない段階での「立退交渉」が、弁護士法72条の禁止する「その他一般の法律事件」に関する事務に含まれるか。
規範
弁護士法72条の「その他一般の法律事件」とは、訴訟事件や審査請求等と同程度に、権利義務に争いや疑義があり、又は新たな権利義務関係が発生するなどの法的紛議が生ずるおそれのある事案を指す。具体的には、交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることが「ほぼ不可避」である案件に係る法律事務は、同条の禁止対象に含まれる。
重要事実
不動産会社Aから委託を受けた非弁護士の被告人らは、報酬目的かつ業として、74名の賃借人が入居するビルの立退交渉を行った。賃借人らは賃貸借契約期間中で現に業務を行っており、立退きの意向はなかった。被告人らは所有者を偽る等の不適切な言動を交えつつ、約10か月にわたり合意解除と明渡しの交渉を行い、立退料の支払を含む合意を締結させた。Aからは報酬と経費が一括して支払われていた。
あてはめ
本件業務は、現に業務継続中で立退意向のない多数の賃借人に対し、専ら賃貸人側の都合で合意解除と明渡しを迫るものである。このような状況下では、立ち退き合意の成否、時期、立退料の額をめぐり、交渉により解決すべき法的紛議が生じることは「ほぼ不可避」といえる。したがって、被告人らが行った交渉は、単なる事実行為ではなく、法的紛議を解決するための法律事務の取り扱いに該当する。
結論
被告人らの行為は、弁護士法72条が禁止する「その他一般の法律事件」に関する法律事務の取り扱いに当たり、同条違反の罪が成立する。
実務上の射程
形式上、権利義務の争いが顕在化していない段階の交渉であっても、その性質上法的紛議が不可避な事案であれば弁護士法72条の射程に含まれることを示した。特に不動産の立退交渉を「コンサルティング」等の名目で非弁護士が行うことの違法性を明確にする際のリーディングケースとなる。
事件番号: 昭和48(あ)679 / 裁判年月日: 昭和51年3月23日 / 結論: 破棄自判
弁護士法七二条にいわゆる「業とする」とは、反覆継続して行う意思のもとに同条列記の行為をすることをいうものと解されるところ、およそ、ある種行為に対する反覆継続の意思の有無を認定するにあたつては、当該本人が同種行為をどの程度行つているかを認定するに若くはないのであつて、それが適切な証拠調に基づいて認定されるものである限り、…
事件番号: 昭和31(ゆ)2 / 裁判年月日: 昭和31年3月9日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】弁護士でない者が、報酬を得る目的で、他人の債権を譲り受ける形式をとりつつ、実質的にはその回収を業として行う行為は、弁護士法72条の「法律事務」の取扱い(非弁活動)に該当し、禁止される。 第1 事案の概要:被告人は、弁護士資格を有しないにもかかわらず、報酬を得る目的をもって、他人の債権を額面より著し…
事件番号: 昭和36(あ)2883 / 裁判年月日: 昭和37年10月4日 / 結論: 棄却
弁護士でない者が報酬を得る目的で、原判示の事情のもとで債権者から債権の取立の委任を受けて、その取立のため請求、弁済の受領、債務の免除等の諸種の行為をすることは、弁護士法第七二条の、「その他一般の法律事件」に関して、「その他の法律事務」を取り扱つた場合に該当する。