売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において,当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど,社会通念上,建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには,上記建物の買主がこれに居住していたという利益については,当該買主からの工事施工者等に対する不法行為に基づく建て替え費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできない。 (補足意見がある。)
売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合に,買主からの工事施工者等に対する不法行為に基づく建て替え費用相当額の損害賠償請求において買主が当該建物に居住していたという利益を損益相殺等の対象として損害額から控除することの可否
民法709条
判旨
建物に構造耐力上の瑕疵があり、倒壊の具体的恐れがあるなど社会通念上価値を有しない場合、居住利益や建て替えによる耐用年数の伸長を損益相殺として控除することはできない。
問題の所在(論点)
建物に重大な瑕疵があり建て替えを要する場合において、①買主がそれまで居住していたことによる利益、および②建て替えによって耐用年数が伸長した新築建物を取得する利益を、不法行為に基づく損害賠償額から控除(損益相殺)できるか。
規範
売買目的物である建物に構造耐力上の安全性に関わる重大な瑕疵があり、倒壊の具体的恐れがあるなど社会通念上建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべき場合には、買主が享受した「居住利益」を損益相殺等の対象として損害額から控除することはできない。また、建て替えにより結果的に耐用年数が伸長した新築建物を取得することになっても、これを「利益」とみることはできず、同様に控除の対象とはならない。
重要事実
被上告人らは、上告人らが設計・施工・監理を行った新築鉄骨造3階建て建物を購入し居住を開始した。しかし、当該建物には柱はり接合部の溶接未施工、柱・梁・基礎の部材不足や強度不足等、構造耐力上の安全性に関わる重大な瑕疵が多数存在し、建て替えざるを得ない状態であった。上告人らは不法行為に基づき建て替え費用相当額の賠償を命じられたが、被上告人が居住により得た利益や、建て替えで耐用年数が延びる利益を控除(損益相殺)すべきと主張して上告した。
あてはめ
本件建物には、柱・梁の応力度が許容範囲を超え、外壁崩壊の恐れや基礎の厚さ不足があるなど、構造耐力上の重大な瑕疵が認められる。これらは建物が倒壊する具体的な恐れがあることを意味し、社会通念上、本件建物は社会経済的価値を有しない。このような危険な建物に居住せざるを得なかった状況における「居住利益」を法的利益として評価することは不当である。また、当初から瑕疵のない建物の引渡しを受けていれば当然に得られたはずの状態を回復するに過ぎない建て替えについて、耐用年数の伸長を利得と解することも公平の観点から許されない。
結論
本件建物は社会経済的価値を有しないため、居住利益および耐用年数伸長の利益はいずれも損益相殺の対象とならず、損害額から控除することはできない。
実務上の射程
建物の建て替えを要する瑕疵(不法行為責任)における損益相殺の限界を示したもの。居住利益の控除を認めると、賠償が遅れるほど(居住期間が延びるほど)加害者の負担が減るという不合理が生じるため、これを否定する。実務上は「社会通念上価値を有しない」といえるほどの重大な欠陥(安全性欠如)の存否が射程を画する鍵となる。
事件番号: 平成17(受)702 / 裁判年月日: 平成19年7月6日 / 結論: その他
建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者を含む建物利用者,隣人,通行人等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い,これを怠ったために建築された建物に上記安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体…