売買契約の目的物である土地の土壌に,上記売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことは,(1)上記売買契約締結当時の取引観念上,ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず,(2)上記売買契約の当事者間において,上記土地が備えるべき属性として,その土壌に,ふっ素が含まれていないことや,上記売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず,人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが,特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれないなど判示の事情の下においては,民法570条にいう瑕疵に当たらない。
売買契約の目的物である土地の土壌に,上記売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことが,民法570条にいう瑕疵に当たらないとされた事例
民法570条
判旨
売買契約の目的物に隠れた瑕疵があるかは、契約締結当時の取引観念を基準に判断すべきであり、当時有害性が認識されておらず規制対象外であった物質が含まれていても、直ちに瑕疵には当たらない。
問題の所在(論点)
売買契約締結時には有害性が社会的に認識されておらず、法令の規制対象でもなかった物質が土壌に含まれていることが、民法570条にいう「瑕疵」に当たるか。
規範
民法570条(現562条以下)の「瑕疵」とは、目的物が通常備えるべき品質・性能を欠いていることをいう。その存否は、売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかにより判断され、その判断に際しては「売買契約締結当時の取引観念」を斟酌すべきである。また、特定の性質の具備が特に予定されていたとみるべき特段の事情がない限り、締結後に有害と認識され規制対象となった物質の含有をもって直ちに瑕疵と解することはできない。
重要事実
事件番号: 平成22(受)1163 / 裁判年月日: 平成25年7月12日 / 結論: 破棄差戻
壁面に吹き付けられた石綿が露出している建物で昭和45年から平成14年まで勤務していた間にその石綿の粉じんにばく露したことにより悪性胸膜中皮腫に罹患した者の相続人が,同建物の所有者に対し,民法717条1項ただし書の規定に基づく損害賠償を求める訴訟において,原審が,同建物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったの…
被上告人は平成3年、上告人から土地(本件土地)を買い受けた。本件土地には当時からふっ素が含まれていたが、当時はふっ素の土壌含有に関する法令上の規制はなく、取引観念上も健康被害のおそれがある物質とは認識されていなかった。しかし、平成13年の環境基準改正および平成15年の土壌汚染対策法施行により、ふっ素が特定有害物質に指定された。その後、本件土地から基準値を超えるふっ素が検出されたため、被上告人が「瑕疵」に当たるとして損害賠償を請求した。
あてはめ
本件売買契約締結当時、取引観念上、ふっ素が健康被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、買主の担当者もその認識を有していなかった。規制の対象となったのは契約締結から約10年後である。また、契約において「ふっ素が含まれないこと」や「将来有害性が判明する一切の物質が含まれないこと」が属性として特に予定されていた事情も認められない。したがって、締結当時の取引観念に照らせば、本件土地がふっ素を含まない品質を備えることが予定されていたとはいえない。
結論
本件土地の土壌に基準値を超えるふっ素が含まれていたとしても、民法570条にいう瑕疵には当たらない。
実務上の射程
契約締結後の科学技術の進展や法令改正により新たに欠陥とみなされるようになった事象(いわゆる開発リスク等)について、瑕疵の判定基準時を「契約締結時」に固定し、当時の取引観念を重視する実務指針を示した。契約不適合責任(改正民法)下でも「契約の趣旨」を解釈する際の重要判例として機能する。
事件番号: 平成23(受)1490 / 裁判年月日: 平成25年3月22日 / 結論: 破棄自判
土地区画整理事業の施行地区内の土地を購入した買主が売買後に土地区画整理組合から賦課金を課された場合において,土地区画整理組合が組合員に賦課金を課する旨を総代会において決議するに至ったのは,上記売買後に開始された保留地の分譲が芳しくなかったためであり,上記売買の当時,土地区画整理組合において組合員に賦課金を課することが具…