保険金目的による被殺者2名の殺人の事案につき,無期懲役の量刑が維持された事例
刑法9条,刑法199条,刑訴法411条2号
判旨
死刑選択を考慮すべき重大な罪責であっても、犯行計画の緻密さの欠如や、被告人に前科がなく更生の可能性があること、公判過程での反省の態度等の情状を総合考慮し、無期懲役が維持された事例である。
問題の所在(論点)
保険金目的で2名を殺害した事案において、死刑の選択を回避し無期懲役を維持した原判決が、量刑不当として破棄すべき著しく正義に反するものといえるか(永山基準の当てはめ)。
規範
死刑の選択に当たっては、犯行の性質、動機、態様(特に殺害の手段・方法の執拗さ・残酷さ)、結果の重大性(特に殺害された被害者の数)、遺族の処罰感情、社会的影響、被告人の年齢、前科、犯行後の情状を総合的に考慮し、その罪責が極めて重大であって、罪罰の均衡及び一般予防の観点からやむを得ない場合に限り選択される。
重要事実
被告人(当時64歳)は多額の借金返済のため、妻(59歳)と養母(84歳)にかけた死亡保険金を得る目的で、2人を乗せた乗用車を海中に転落させて溺死させた。被告人は計画的に事故を装ったが、下見はしておらず、現場到着後に場所を探し回っていた。被告人は無前科で、一応普通の社会生活を送っていた。第1審途中で否認に転じたが、控訴審では犯行を認め、反省の態度を示した。
あてはめ
本件は利欲的動機が極めて悪質であり、確定的な殺意に基づく計画的犯行で2名を殺害した結果は重大である。もっとも、(1)犯行計画に緻密さ・周到さが欠けること、(2)被告人に前科がなく、凶悪犯罪の傾向も認められず、社会人として普通の生活を送っていたこと、(3)最終的には反省・悔悟の態度を示したこと等の事情が認められる。これらを総合すると、死刑選択も考慮に値するが、無期懲役とした原判決が著しく正義に反するとまではいえない。
結論
被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は相当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
2名殺害の事案であっても、保険金殺人という利欲的動機だけでなく、計画の具体性や被告人の社会的背景、公判での悔悟といった主観的・修正的情状が死刑回避の決定打となり得ることを示す事例である。
事件番号: 平成12(あ)1778 / 裁判年月日: 平成17年1月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保険金目的の殺人2件について、実行行為の主導性、執拗かつ残虐な犯行態様、遺族の厳しい処罰感情等の諸事情を総合考慮し、死刑の科刑を是認した事例。 第1 事案の概要:被告人は、(1)知人と共謀し、知人の債務免脱等のため、被害者を腰ひもで絞殺して自殺を偽装し、報酬700万円を受領した。その約4年半後、(…
事件番号: 平成16(あ)1709 / 裁判年月日: 平成20年1月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保険金目的で2名を殺害し、強盗等を行った事案において、計画的かつ残忍な犯行態様、金銭欲による動機、主導的役割等の事情を重視し、死刑の適用を肯定した。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀し、(1)保険金目的で共犯者の夫を薬物で眠らせた上、海中に沈めて殺害し約9870万円を詐取した。(2)約6年…
事件番号: 平成12(あ)1634 / 裁判年月日: 平成16年11月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保険金目的の殺人2件を含む事案において、被告人が首謀者として犯行を主導し、冷酷かつ残忍な方法で実行したこと等の情状を重視し、被告人の不遇な成育歴を考慮しても死刑判決を維持した事案である。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀の上、(1)知人男性に保険を掛け殺害し保険金約5014万円を詐取、(2…