死刑の量刑が維持された事例(A弁護士一家等殺人事件)
判旨
極めて重大な結果を招いた組織的・計画的な殺人事件において、動機に酌量の余地がなく犯行態様が冷酷・残忍である場合には、自首や反省等の事情を考慮しても死刑の選択は免れない。
問題の所在(論点)
死刑選択の許容性(刑法11条、刑訴法411条)。特に、複数の残虐な殺人関与がある一方で、自首や反省といった被告人に有利な事情が存在する場合の量刑判断が問題となる。
規範
死刑の適用を検討するに際しては、永山基準(最判昭58・7・8)を踏まえ、(1)犯行の性質(組織性・計画性)、(2)動機(組織防衛・利己性)、(3)犯行態様(殺害方法の執拗さ・残虐性)、(4)結果の重大性(殺害人数・社会的影響)、(5)被害者遺族の感情、(6)犯行後の情状(隠ぺい工作)、(7)被告人の役割、(8)被告人の属性(反省の有無・自首)を総合考慮し、その刑事責任が極めて重大であって、罪刑均衡及び一般予防の見地からやむを得ない場合に認められる。
重要事実
宗教教団幹部であった被告人は、共犯者らと共謀し、(1)教団からの脱会を希望した信者を口封じ目的で殺害し、(2)教団に対抗する活動をしていた弁護士一家3名(妻および1歳の長男を含む)を自宅で殺害した。被告人は、信者殺害ではロープを牽引し、弁護士殺害では直接腕で首を絞めるなどの実行行為を分担した。死体は焼却または山中に埋没させて隠匿した。被告人はその後自首し、公判では反省の態度を示していた。
あてはめ
動機は教団の組織防衛のみを目的としたもので、酌量の余地がない。特に弁護士一家殺害は、正当な職務活動を敵視した「皆殺し」であり、法治国家の秩序を無視する反社会性が極めて強い。態様も、複数名で絞殺や殴打を加え窒息死させるなど組織的・計画的で冷酷・残忍である。死体遺棄による隠ぺいも周到である。被告人は幹部として直接実行行為に加わり、その役割は非常に重い。遺族の処罰感情も峻烈である。これらの事情に照らせば、自首・反省・冥福の祈念といった有利な事情を最大限考慮しても、刑事責任は極めて重大といえる。
結論
被告人の刑事責任は極めて重大であり、一審の死刑判決を維持した原判決に不当な点はなく、死刑の選択は是認される。
実務上の射程
組織的殺害および一家皆殺しという結果の重大性が、自首による刑の減軽(刑法42条1項)や反省といった一般的情状を凌駕することを示す事例。司法試験においては、死刑選択の可否が問われる場面で、永山基準の各要素を本件のあてはめを参考に具体化して論じる際の指標となる。
事件番号: 平成18(あ)34 / 裁判年月日: 平成21年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】2名を殺害した殺人被告事件において、経済的利得の保持等を目的とした身勝手な動機、執拗かつ残虐な殺害態様、計画性、重大な結果、及び不合理な弁解に終始する反省の欠如等の諸事情に照らせば、死刑判決の維持は止むを得ない。 第1 事案の概要:保険外交員の被告人が、架空契約に伴う横領等の不正発覚を免れるため、…
事件番号: 平成13(あ)670 / 裁判年月日: 平成17年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】筋弛緩剤を用いた5名の殺害および死体遺棄事件において、動機の身勝手さ、犯行態様の残虐性、結果の重大性を鑑みれば、反省の情等の有利な事情を考慮しても死刑判決の維持は正当である。 第1 事案の概要:被告人は、約1年4か月の間に、職場の同僚、知人、アルバイト、取引先女性ら計5名を、筋弛緩剤を注射する方法…