死刑事件(実父等家族三名殺害事件)
判旨
死刑の選択に際しては、犯行の罪質、態様、結果の重大性、動機、遺族の被害感情、社会的影響等の諸事情を総合考慮し、被告人の成育歴や前科がないこと等の情状を斟酌してもその罪責が誠に重いと認められる場合には、死刑の科刑も許容される。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法411条2号の適用に関し、本件のような犯行の残虐性や結果の重大性が認められる一方で、被告人に酌むべき身上の事情(前科なし等)がある場合において、死刑の科刑を維持した原判決が量刑不当として破棄されるべきか。
規範
死刑の適用については、いわゆる永山判決(最判昭58.7.8)の判断枠組みに従い、①犯行の罪質、②犯行の態様(執拗性・残虐性等)、③殺害された被害者の数等の結果の重大性、④遺族の被害感情、⑤社会的影響、⑥殺害の動機、⑦被告人の年齢、⑧前科、⑨犯行後の情状の各項目を総合的に考慮し、その罪責が極めて重大であって、罪刑均衡の観点からも一般予防の観点からもやむを得ない場合に認められる。
重要事実
被告人は、実父、同居の女性、および同女の孫娘(1歳)の計3名を、3年半に及ぶ準備の末に日本刀で次々と惨殺した。動機は「弟の自殺は実父の責任」という一方的な思い込みや、1歳の幼児を実父の血縁と誤認したこと等、被告人の特異な価値判断に基づく自己中心的なものであった。一方、被告人には前科・前歴がなく、成育歴に同情すべき点があり、これまで平均的な市民生活を送ってきたという事情があった。
あてはめ
本件は3名もの尊い生命を奪った結果が極めて重大であり、日本刀を用いるという犯行態様も著しく残虐である。動機についても、幼児を誤認して殺害するなど独善的で酌量の余地がない。これら①罪質、②態様、③結果、⑥動機の重大さに加え、④遺族の感情や⑤社会的影響を考慮すれば、被告人の⑦〜⑨の身上の事情(成育歴、前科なし等)を最大限考慮しても、被告人の罪責は誠に重いといえる。
結論
被告人の罪責は極めて重く、死刑を科した第一審判決を維持した原判決は、当裁判所もこれを是認せざるを得ない。
実務上の射程
死刑選択の判断枠組みとして確立された「永山基準」を再確認する事案。特に、被害者が複数であり、かつ動機に合理性がない事案において、前科のない一般的な市民であっても、犯行の残虐性や結果の重大性が上回れば死刑が回避されないことを示す実例として答案で活用できる。
事件番号: 昭和42(あ)2009 / 裁判年月日: 昭和43年5月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の選択については、犯行の計画性の有無、前科の有無、被害回復の状況といった被告人に有利な事情を考慮してもなお、犯行の動機、態様、結果の重大性等の諸般の事情に照らし、その責任が極めて重いと認められる場合には、これを是認することができる。 第1 事案の概要:被告人は、全く落ち度のない青年2人を、自身…
事件番号: 平成6(あ)1024 / 裁判年月日: 平成10年12月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】半年余りの間に3名の命を奪った結果は極めて重大であり、犯行態様が冷酷、残忍かつ非情であって、遺族の被害感情も極めて厳しい等の事情がある場合には、被告人に有利な事情を考慮しても死刑の科刑はやむを得ない。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共に借金トラブルからBを殺害・遺棄し、その後、共犯者の父Dか…
事件番号: 平成17(あ)1823 / 裁判年月日: 平成20年6月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の量刑に際しては、犯行の性質、動機、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状を総合考慮すべきであり、本件の残虐性や強固な殺意に鑑みれば死刑はやむを得ない。 第1 事案の概要:被告人は、同棲相手の娘(12歳)と口論になり、憎しみを爆発させて包丁と紐で殺害。そ…