再審請求を棄却した原決定に審理不尽の違法があるとされた事例(いわゆる名張毒ぶどう酒殺人事件第7次再審請求)
刑訴法435条6号,刑訴法411条1号
判旨
再審請求において、確定判決の証拠と新証拠を総合評価した結果、毒物の成分分析に関する科学的知見に疑問が生じ、確定判決の認定に合理的な疑いが生じる可能性がある場合には、さらなる事実解明のための審理を尽くすべきである。
問題の所在(論点)
成分分析において特定の成分が検出されなかった事実が、確定判決の認定(ニッカリンTの混入)に合理的疑いを生じさせる「明らかな証拠」(刑訴法435条6号)にあたるか。また、原審が「希釈や抽出効率の問題」として未検出の合理性を認めた判断に審理不尽の違法があるか。
規範
刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたるかは、新証拠と確定判決の際に出された証拠とを総合的に評価し、確定判決の事実認定に合理的疑いを生じさせるか否かという観点から判断する。科学的鑑定に疑義が生じた場合、裁判所は科学的知見に基づき、その推論過程の合理性を慎重に検討しなければならない。
重要事実
名張ぶどう酒事件の再審請求。確定判決は、被告人が農薬「ニッカリンT」をぶどう酒に混入したと認定したが、当時の成分分析(ペーパークロマトグラフ試験)の結果、事件検体からはニッカリンTの主成分の一つであるトリエチルピロホスフェート(特定Rf値のスポット)が検出されていなかった。新証拠(J鑑定等)は、この未検出事実に基づき、混入された毒物はニッカリンTではない可能性を指摘した。
あてはめ
原決定は、事件検体が希釈されていたため検出限界を下回ったと推論したが、新証拠(J鑑定)によれば、検出された他成分(TEPP等)との重量比や抽出効率を考慮すると、当該成分のみが検出されないことは合理的説明が困難である。検察側は発色反応の弱さを主張するが、弁護側は科学的に反論しており、専門家間でも見解が対立している。このような状況下で、科学的知見に基づく詳細な検討や実験等の鑑定を行わずに「検出されなかったことも十分可能」とした原判断は、推論過程に誤りの疑いがあり、審理不尽といえる。
事件番号: 平成24(し)268 / 裁判年月日: 平成25年10月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求における新証拠の証拠価値は、科学的知見に基づく合理的根拠に照らして判断されるべきであり、本件では鑑定結果から自白内容と客観的証拠の矛盾が解消されたため、再審開始の要件を欠くとされた。 第1 事案の概要:本件は、公民館のぶどう酒に農薬(ニッカリンT)を混入させ5名を殺害したとされる名張ぶどう…
結論
原決定には事実解明を尽くしていない違法があるため、これを取り消し、科学的知見の更なる究明(再現実験や鑑定等)を求めて審理を差し戻す。
実務上の射程
白鳥・財田川決定以降の「疑わしきは被告人の利益に」という再審の鉄則を、科学的証拠の評価においても適用した例。特に、成分分析結果と自白の整合性が争点となる事案において、裁判所が単なる抽象的可能性に頼らず、最新の科学的知見に基づいた緻密な検証を尽くす義務があることを示唆している。
事件番号: 平成5(し)40 / 裁判年月日: 平成9年1月28日 / 結論: 棄却
一 再審請求段階で新たに提出された証拠により確定判決の有罪認定の根拠となった証拠の一部について証明力が大幅に減殺された場合に刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるか否かは、再審請求後に提出された新証拠と確定判決を言い渡した裁判所で取り調べられた全証拠とを総合的に評価した結果として、確定判決の…
事件番号: 平成14(し)18 / 裁判年月日: 平成17年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求における「証拠の明白性」(刑訴法435条6号)の判断にあたっては、新証拠だけでなく、確定判決の証拠と全証拠を総合評価すべきである。本件の筆跡鑑定等の新証拠は、作成時の心理的状況や習癖の恒常性を考慮しておらず、確定判決の認定を左右するに足りる明白な証拠とは認められない。 第1 事案の概要:狭…
事件番号: 昭和46(し)67 / 裁判年月日: 昭和50年5月20日 / 結論: 棄却
一 刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる盡然性のある証拠をいう。 二 刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとすれば、…
事件番号: 昭和58(し)2 / 裁判年月日: 昭和62年2月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらないとした原決定の判断を、正当として是認したものである。 第1 事案の概要:申立人は、確定判決に対する再審請求を行い、その根拠として刑訴法435条6号所定の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたる新証拠を提出した。しかし、原審…