刑訴法435条6号の証拠の明白性を否定するなどした原判断が是認された事例(いわゆる狭山事件第2次再審請求)
刑訴法435条6号,刑訴法447条
判旨
再審請求における「証拠の明白性」(刑訴法435条6号)の判断にあたっては、新証拠だけでなく、確定判決の証拠と全証拠を総合評価すべきである。本件の筆跡鑑定等の新証拠は、作成時の心理的状況や習癖の恒常性を考慮しておらず、確定判決の認定を左右するに足りる明白な証拠とは認められない。
問題の所在(論点)
刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」の存否。特に、(1)再審請求審で提出された新証拠が、確定判決の依拠した証拠の信用性を揺るがし、事実認定に合理的な疑いを生じさせるか、(2)異議審で追加提出された証拠の取り扱い、が問題となった。
規範
再審請求(刑訴法435条6号)における証拠の明白性は、新旧全証拠を総合的に評価し、確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせるか否かによって判断する。筆跡鑑定については、単に文字の形態のみならず、文書作成時の書字条件(心理面、筆記具、参照資料の有無等)や、能力の限界、習癖の固定性・変容性を総合的に検討し、鑑定の前提条件の妥当性を精査すべきである。
重要事実
狭山事件の第2次再審請求において、申立人(被告人)側は、脅迫状の筆跡が申立人のものと異なること、殺害・姦淫の態様に関する自白が客観的事実と矛盾すること等を理由に、多数の専門家による筆跡鑑定書や法医学意見書を新証拠として提出した。特に筆跡に関しては、申立人の国語能力が極めて低く、脅迫状のような文章は作成不能であるとの主張がなされた。
あてはめ
筆跡鑑定について、新証拠は警察署長あて上申書等を比較対象とするが、これらは監視下での虚偽アリバイ工作等、特殊な心理的条件下で作成されたものであり、自発的な脅迫状と書字能力に差が出るのは不自然ではない。また、起訴後の書簡等では十分な書字能力が示されており、低学年程度の能力とする鑑定の前提は失当である。他の法医学的証拠等も、死体現象の個体差や捜査報告書の作成経緯に照らせば、自白の「秘密の暴露」を否定するに足りず、確定判決を覆すほどの明白性はない。なお、異議審での新証拠追加は事後審査の性格上不適法であるが、職権による実質判断においても同様に明白性を欠く。
事件番号: 昭和46(し)67 / 裁判年月日: 昭和50年5月20日 / 結論: 棄却
一 刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる盡然性のある証拠をいう。 二 刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとすれば、…
結論
本件各新証拠を、確定判決の証拠と総合評価しても、申立人が犯人であるとの認定に合理的な疑いは生じない。したがって、証拠の明白性は認められず、再審請求を棄却した原判断は正当である。
実務上の射程
再審における「新旧証拠の総合評価」の実践例。特に筆跡鑑定等の科学的証拠を争う際、鑑定手法の妥当性だけでなく、その前提となる「被検者の当時の状況(心理・環境)」の重要性を強調する。また、再審手続の各段階(請求審・異議審・抗告審)における証拠提出の適法性・制限についても指針となる。
事件番号: 平成11(し)155 / 裁判年月日: 平成14年4月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審の請求において、新証拠が「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたるかは、確定判決の証拠と新証拠を総合評価して判断される。本件では、元警察署長のノートは伝聞証拠であり正確性や証拠価値が乏しく、確定判決の基礎となった証拠の信用性を揺るがすには足りない。 第1 事案の概要:申立人が10分間の犯行機会…
事件番号: 平成17(し)44 / 裁判年月日: 平成22年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】新旧両証拠を総合的に評価したとしても、確定判決における認定に合理的な疑いを生じさせるような明白な新証拠が認められない場合には、再審請求を棄却すべきである。 第1 事案の概要:本件は殺人被告事件であり、確定判決は被告人を犯人と認定し懲役15年の刑に処した。弁護人は、犯行に用いられたとされる凶器(ナイ…
事件番号: 昭和58(し)2 / 裁判年月日: 昭和62年2月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらないとした原決定の判断を、正当として是認したものである。 第1 事案の概要:申立人は、確定判決に対する再審請求を行い、その根拠として刑訴法435条6号所定の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたる新証拠を提出した。しかし、原審…
事件番号: 昭和56(し)45 / 裁判年月日: 昭和60年5月27日 / 結論: 棄却
所論引用の各新証拠(判文参照)は、それ自体においても、また、旧証拠と総合評価しても、申立人に無罪を言い渡すべき明らかな証拠とはいえない。