刑訴法435条6号の証拠の明白性を否定した原判断が是認された事例(いわゆる名張毒ぶどう酒殺人事件)
刑訴法435条6号
判旨
再審の請求において、新証拠が「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたるかは、確定判決の証拠と新証拠を総合評価して判断される。本件では、元警察署長のノートは伝聞証拠であり正確性や証拠価値が乏しく、確定判決の基礎となった証拠の信用性を揺るがすには足りない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法435条6号の再審事由において、新証拠(元警察署長の捜査ノート)が、確定判決の認定した犯行機会の存在について合理的な疑いを生じさせる「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当するか。
規範
刑事訴訟法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたるか否かは、確定判決の証拠に新証拠を加え、これらを総合的に評価した上で、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じるかという観点から判断する。供述の弾劾を目的とする証拠については、その内容の正確性、供述者の直接性、他の客観的証拠との整合性を踏まえ、確定判決の証拠の証明力を実質的に減殺し得るかにより決する。
重要事実
申立人が10分間の犯行機会を有していたとする確定判決に対し、申立人は元警察署長の備忘録(Aノート)を新証拠として提出した。同ノートには、主要目撃者Cが「D方を出てから途中でEと出会い、共に公民館へ行った」旨の記載があり、Cが一度D方に戻ったため10分間の空白が生じたとする確定判決の認定(C供述)と矛盾する内容が含まれていた。しかし、Cの供述は一貫しており他の関係者(E、F、G)の供述とも合致していた。一方、Aノートは伝聞に基づく記載であり、本人への確認も経ていないものであった。
あてはめ
Cの供述は捜査段階から一貫しており、E等の他者の供述とも符合するため信用性が極めて高い。これに対し、新証拠であるAノートは、AがCから直接聴取したものではなく、他の捜査官から伝聞した情報を記載したに過ぎない。また、記載内容の正確性について本人への確認手続も経ていないと推認され、証拠価値は乏しい。したがって、Aノートの記載を考慮しても、C供述の証明力が減殺されることはなく、確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるものではない。
事件番号: 昭和54(し)109 / 裁判年月日: 昭和55年12月11日 / 結論: 棄却
本件事案(原判文参照)につき請求人提出にかかる証拠の新規性及び明白性を認めて再審請求を認容すべきものとした原決定の判断は、是認することができる。
結論
本件新証拠は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」には該当せず、再審請求を棄却した原決定は正当である。
実務上の射程
新証拠の「明白性」の判断における「新旧証拠の総合評価」の具体例を示す。特に、供述を弾劾する形式の書面については、その作成過程や伝聞の程度(直接性)を厳格に評価し、既存の強固な供述証拠を覆すに足りるかを判断する際の基準となる。
事件番号: 昭和58(し)2 / 裁判年月日: 昭和62年2月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらないとした原決定の判断を、正当として是認したものである。 第1 事案の概要:申立人は、確定判決に対する再審請求を行い、その根拠として刑訴法435条6号所定の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたる新証拠を提出した。しかし、原審…
事件番号: 平成14(し)18 / 裁判年月日: 平成17年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求における「証拠の明白性」(刑訴法435条6号)の判断にあたっては、新証拠だけでなく、確定判決の証拠と全証拠を総合評価すべきである。本件の筆跡鑑定等の新証拠は、作成時の心理的状況や習癖の恒常性を考慮しておらず、確定判決の認定を左右するに足りる明白な証拠とは認められない。 第1 事案の概要:狭…
事件番号: 平成17(し)44 / 裁判年月日: 平成22年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】新旧両証拠を総合的に評価したとしても、確定判決における認定に合理的な疑いを生じさせるような明白な新証拠が認められない場合には、再審請求を棄却すべきである。 第1 事案の概要:本件は殺人被告事件であり、確定判決は被告人を犯人と認定し懲役15年の刑に処した。弁護人は、犯行に用いられたとされる凶器(ナイ…
事件番号: 昭和56(し)45 / 裁判年月日: 昭和60年5月27日 / 結論: 棄却
所論引用の各新証拠(判文参照)は、それ自体においても、また、旧証拠と総合評価しても、申立人に無罪を言い渡すべき明らかな証拠とはいえない。