所論引用の各新証拠(判文参照)は、それ自体においても、また、旧証拠と総合評価しても、申立人に無罪を言い渡すべき明らかな証拠とはいえない。
刑訴法四三五条六号にいう無罪を言い渡すべき明らかな証拠とはいえないとされた事例
刑訴法435条6号,刑訴法447条1項
判旨
再審請求における新証拠の明白性の判断にあたっては、新証拠だけでなく旧証拠と総合的に評価し、確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせるか否かを検討すべきである。本件では、筆跡、足跡、万年筆、殺害方法等に関する多数の新証拠が提出されたが、いずれも確定判決の認定を覆すに足りる明白性を備えていない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」の判断基準と、科学的鑑定を含む多数の新証拠が確定判決の認定を左右する「明白性」を有するか。
規範
再審請求において「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑事訴訟法435条6号)にあたるか否かは、新証拠の証明力だけでなく、確定判決を維持させてきた旧証拠と新証拠を総合的に評価し、確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせるかという観点から判断されるべきである(「白鳥・財田川裁定」の基準)。
重要事実
強盗殺人罪等で死刑が確定した申立人が再審を請求した事案。弁護側は、①スコップ付着土壌の不一致、②足跡のサイズ・形状の相違、③脅迫状の筆跡と申立人の筆記能力の乖離、④被害者のものとされる押収万年筆のインク色の相違、⑤殺害方法(扼殺か絞殺か)の医学的矛盾などの新鑑定・新証拠を提出し、確定判決の認定には合理的な疑いがあると主張した。
事件番号: 昭和46(し)67 / 裁判年月日: 昭和50年5月20日 / 結論: 棄却
一 刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる盡然性のある証拠をいう。 二 刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとすれば、…
あてはめ
各論点について以下の通り判断された。①土壌鑑定は採取箇所の類似性を否定できず、旧鑑定を覆さない。②足跡鑑定は統計的手法や計測基礎データに不備があり明白性がない。③筆跡鑑定は、申立人の特殊な誤用(「で」を「出」と書く等)が脅迫状と一致する等の旧証拠の蓋然性を超えられない。④万年筆のインクは補充の可能性が否定できず、所有権認定を動かさない。⑤殺害方法は、自白と鑑定結果に重大な齟齬はなく、記憶の混乱の範囲内といえる。これらを総合しても、確定判決の認定が揺らぐほどの合理的疑いは生じない。
結論
本件各新証拠は、旧証拠と総合評価しても申立人を無罪とすべき明白な証拠とはいえず、再審請求を棄却した原決定は正当である。
実務上の射程
科学的証拠(鑑定)の明白性を争う際の典型例である。新証拠の不備(条件設定の相違、統計的手法の妥当性)を個別具体的に論じた上で、それらが確定判決の柱となった証拠群を実質的に切り崩せているかを「総合評価」する枠組みを示す際に有用である。
事件番号: 平成7(し)49 / 裁判年月日: 平成10年10月27日 / 結論: 棄却
一 確定判決が科刑上一罪として処断した一部の罪について無罪とすべき明らかな証拠を新たに発見した場合は、その罪が最も重い罪ではないときであっても、刑訴法四三五条六号の再審事由に該当する。 二 確定判決が詳しく認定判示した犯行の態様の一部に事実誤認のあることが判明した場合であっても、そのことにより罪となるべき事実の存在に合…
事件番号: 平成14(し)18 / 裁判年月日: 平成17年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求における「証拠の明白性」(刑訴法435条6号)の判断にあたっては、新証拠だけでなく、確定判決の証拠と全証拠を総合評価すべきである。本件の筆跡鑑定等の新証拠は、作成時の心理的状況や習癖の恒常性を考慮しておらず、確定判決の認定を左右するに足りる明白な証拠とは認められない。 第1 事案の概要:狭…
事件番号: 平成5(し)40 / 裁判年月日: 平成9年1月28日 / 結論: 棄却
一 再審請求段階で新たに提出された証拠により確定判決の有罪認定の根拠となった証拠の一部について証明力が大幅に減殺された場合に刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるか否かは、再審請求後に提出された新証拠と確定判決を言い渡した裁判所で取り調べられた全証拠とを総合的に評価した結果として、確定判決の…
事件番号: 平成11(し)155 / 裁判年月日: 平成14年4月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審の請求において、新証拠が「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたるかは、確定判決の証拠と新証拠を総合評価して判断される。本件では、元警察署長のノートは伝聞証拠であり正確性や証拠価値が乏しく、確定判決の基礎となった証拠の信用性を揺るがすには足りない。 第1 事案の概要:申立人が10分間の犯行機会…