一 刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる盡然性のある証拠をいう。 二 刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとすれば、はたしてその確定判決においてされたような事実認定に到達したであろうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきである。 三 刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であるかどうかの判断に際しても、再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用される。
一、刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」の意義 二、刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」の判断方法 三、再審請求に対する審判と「疑わしいときは被告人の利益に」という原則との関係
刑訴法435条6号
判旨
再審における「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)とは、確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠を指す。この判断に際しては、「疑わしいときは被告人の利益に」という鉄則が適用され、新証拠と旧証拠を総合的に評価して判断すべきである。
問題の所在(論点)
刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(証拠の明白性)の意義、およびその判断において「疑わしいときは被告人の利益に」という原則が適用されるか。また、総合評価の結果として有罪認定が維持されるべきか。
規範
「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)とは、確定判決の事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいう。その判断にあたっては、新証拠が仮に旧受訴裁判所の審理中に提出されていたならば、確定判決のような事実認定に到達したであろうかという観点から、新旧証拠を「総合的に評価」して判断すべきである。また、この判断段階においても「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則(in dubio pro reo)が適用される。
事件番号: 昭和58(し)2 / 裁判年月日: 昭和62年2月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらないとした原決定の判断を、正当として是認したものである。 第1 事案の概要:申立人は、確定判決に対する再審請求を行い、その根拠として刑訴法435条6号所定の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたる新証拠を提出した。しかし、原審…
重要事実
白鳥事件の再審請求において、申立人は、有罪認定の重要な柱であった「証拠弾丸」の腐食状況や条痕に関する新鑑定(新証拠)を提出した。新鑑定によれば、証拠弾丸が長期間土中に埋没していた可能性や、被害者体内からの摘出弾丸と同一の拳銃から発射された可能性には大きな疑問が生じ、証拠弾丸の偽造や捜査の不公正の疑念が示唆された。原決定は、証拠弾丸の証拠価値の減退を認めつつも、他の膨大な間接事実により有罪認定は維持されるとして再審請求を棄却したため、特別抗告がなされた。
あてはめ
まず、証拠の明白性判断においても、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じれば足りるという意味で、被告人の利益の原則が適用されるべきである。本件の新証拠(弾丸鑑定)により、証拠弾丸の証拠価値が大幅に減退し、不公正な捜査への疑念が生じることは否定できない。しかし、確定判決は証拠弾丸のみに依拠したものではない。当時の共産党関係者らの公判証言により認定された、犯行前の共謀、動静調査の指示、犯行後の犯人による告白、天誅ビラの作成等の26個の間接事実は、相互に密接に関連し一義的に要証事実と結びついている。これら公判証言の信憑性は新証拠によっても揺らがない。したがって、新旧証拠を総合評価すれば、証拠弾丸の価値低下を考慮してもなお、確定判決の有罪認定を覆すに足りる合理的な疑いが生じたとはいえない。
結論
新証拠は「明らかな証拠」にあたらない。再審請求を棄却した原決定の結論は正当である。
実務上の射程
再審開始の要件を緩和した画期的判例(白鳥決定)。答案上は、明白性の判断手法として「新旧証拠の総合評価」と「被告人の利益の原則」の適用をセットで論証する際に必須の判例である。特に、一部の物証の証明力が崩れても、他の間接事実によって有罪認定が維持される「総合評価」の具体例としても重要である。
事件番号: 平成5(し)40 / 裁判年月日: 平成9年1月28日 / 結論: 棄却
一 再審請求段階で新たに提出された証拠により確定判決の有罪認定の根拠となった証拠の一部について証明力が大幅に減殺された場合に刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるか否かは、再審請求後に提出された新証拠と確定判決を言い渡した裁判所で取り調べられた全証拠とを総合的に評価した結果として、確定判決の…
事件番号: 平成14(し)18 / 裁判年月日: 平成17年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求における「証拠の明白性」(刑訴法435条6号)の判断にあたっては、新証拠だけでなく、確定判決の証拠と全証拠を総合評価すべきである。本件の筆跡鑑定等の新証拠は、作成時の心理的状況や習癖の恒常性を考慮しておらず、確定判決の認定を左右するに足りる明白な証拠とは認められない。 第1 事案の概要:狭…
事件番号: 昭和56(し)45 / 裁判年月日: 昭和60年5月27日 / 結論: 棄却
所論引用の各新証拠(判文参照)は、それ自体においても、また、旧証拠と総合評価しても、申立人に無罪を言い渡すべき明らかな証拠とはいえない。
事件番号: 昭和49(し)118 / 裁判年月日: 昭和51年10月12日 / 結論: その他
一 刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であるかどうかの判断にあたつては、確定判決が認定した犯罪事実の不存在が確実であるとの心証を得ることを必要とするものではなく、確定判決における事実認定の正当性についての疑いが合理的な理由に基づくものであるかどうかを判断すれば足りる。 二 強盗殺人事件の再審請求…