有限会社カネ一D自転車商会なる商号の会社が、その営業活動の実態の変化に伴い、手形取引も含めて、取引上自己をあらわす名称として有限会社D商会なる名称を使用しているなど原判示の事実関係(原判決理由参照)のもとにおいては、有限会社カネ一D自転車商会は、同社が有限会社D商会なる名称を用いて振り出した約束手形につき、振出人として支払の責に任ずべきものである。
会社が取引上の通称を用いて振り出した約束手形につき振出人として支払の責に任ずべきものであるとされた事例
手形法75条
判旨
会社が手形の振出人として記載する名称は、必ずしも登記された商号である必要はなく、取引上自己を表すために通常使用されている名称(通称)であっても、実在する当該会社が振出人として支払義務を負う。
問題の所在(論点)
手形法1条8号(又は75条7号)の署名において、会社が登記上の商号ではなく取引上の通称を使用した場合、実在する当該会社に手形債務が帰属するか。
規範
会社が手形の振出人として記載する名称は、必ずしも登記を経た商号によらなければならないわけではなく、取引上自己を表すために通常使用されている名称によることも妨げられない。この場合、当該手形は、その通称によって表象される実在の会社が振出人として署名したものと解される。
重要事実
実在する「有限会社カネ一D自転車商会」の代表取締役である被上告人は、手形取引を含む営業活動において、同社の取引上の通称として「有限会社D商会」という名称を通常使用していた。被上告人は、本件各手形において振出人としてこの通称を記載して振り出した。その後、当該手形上の振出人と実在の会社との同一性が争点となった。
あてはめ
本件において、振出人として記載された「有限会社D商会」は、実在の「有限会社カネ一D自転車商会」が営業実態の変化に伴い、手形取引を含め自己を表すために継続的に使用していた名称である。このように取引上自己を表す名称として定着している場合、たとえ登記商号と異なっていても、その記載は実在の会社を表示するものとして有効である。したがって、本件各手形は実在する同社によって振り出されたものと評価される。
結論
本件各手形については、実在の会社である有限会社カネ一D自転車商会が振出人として支払の責に任ずべきである。
実務上の射程
手形行為における署名の有効性と主体の特定に関する重要判例である。商号の一部を省略した名称や、本件のような通称による署名であっても、それが実在の会社を指し示すものとして取引上定着していれば、手形の厳格な要式性(署名の原則)を害さず、当該会社に効果が帰属することを確認している。答案上は、記名押印の有効性が問題となる場面で、主体との同一性を肯定する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和29(オ)933 / 裁判年月日: 昭和30年12月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】約束手形において受取人として実在しない株式会社の商号を記載したとしても、取引上株式会社と認められる名称であれば手形要件の欠陥とはならず、その後の代表者名義による裏書も連続性を有する。 第1 事案の概要:本件約束手形の振出人は、受取人欄に実際には存在しない「D工業株式会社」と記載し、その次行に「代表…