判旨
手形行為者が手形に記載する氏名または商号として、自己の通称、雅号のみならず、取引上慣用する他人の名称を使用することも妨げられない。
問題の所在(論点)
手形法上の署名(裏書)において、本人の氏名や商号ではなく、取引上慣用している「他人の名称」を使用してなされた手形行為が有効か。手形の厳格な要式性との関係が問題となる。
規範
手形行為の有効性は、署名者の特定に資する名称が記載されているか否かによって判断される。具体的には、本人の氏名や商号そのものでなくとも、自己の通称、雅号、さらには取引上慣用している他人の名称を記載して手形行為を行うことも、手形上の署名として有効である。
重要事実
上告人(被告)に対し、被上告人(原告)が手形金の支払を求めた事案。当該手形の最後の裏書人として、被上告人の氏名ではなく「D」という名称が記載されていた。この「D」という名称は、被上告人が銀行取引等において日常的に使用していた称呼(他人の名称)であった。
あてはめ
本件における裏書人名「D」は、被上告人が銀行取引上使用する称呼であると認められる。手形行為においては、行為者が自己を特定する手段として、通称や雅号と同様に、取引上慣用している他人の名称を用いることも許容される。したがって、被上告人が「D」名義で行った裏書は、被上告人本人による有効な署名としての効力を有すると評価できる。
結論
取引上慣用する他人の名称を用いた署名も有効であり、当該裏書に基づく手形上の責任(または権利行使)は認められる。
実務上の射程
手形行為の有効性を広範に認める判例であり、署名の厳格性を緩和する法理として重要である。「通称による署名」が有効であることは争いがないが、本判決はさらに「取引上慣用する他人の名称」であっても、行為者の特定が可能であれば有効であることを明示した点に射程がある。答案上は、署名の欠缺が争点となる場面で、署名代行や通称使用の有効性を基礎付ける論理として援用できる。
事件番号: 昭和38(オ)45 / 裁判年月日: 昭和39年4月17日 / 結論: 棄却
商業登記簿上の名称が「D(平仮名)林業株式会社」である会社が営業上「D林業株式会社」の名称を用いるのを常とし、手形取引においてもその名称を用いていた場合、右名称を用いて振り出した手形は右会社振出の手形として有効である。