商業登記簿上の名称が「D(平仮名)林業株式会社」である会社が営業上「D林業株式会社」の名称を用いるのを常とし、手形取引においてもその名称を用いていた場合、右名称を用いて振り出した手形は右会社振出の手形として有効である。
会社が商業登記簿上の名称以外の名称を用いて振り出した手形が当該会社提出の手形と認められた事例。
手形法1条,手形法75条7号,商法16条
判旨
実在する会社の通称を用いてなされた手形行為について、相手方がその通称が当該会社を指すことを知っていた場合には、登記簿上の正式名称と異なっていても当該会社に帰属する。
問題の所在(論点)
登記簿上の正式名称とは異なる通称(漢字表記)をもってなされた手形振出について、振出人の特定の有無および手形行為の有効性が問題となる。
規範
手形行為における振出人の表示が登記簿上の名称と異なる場合であっても、当該名称が実在する会社が営業上常時使用し、手形取引においても用いられている通称であり、かつ取引の相手方がその事実を認識しているときは、当該手形行為の効力は当該会社に帰属する。
重要事実
訴外D林業株式会社(平仮名表記が登記上の名称)は、営業上「D林業株式会社」(漢字表記)の名称を用いるのを常としており、手形取引においても後者の名称を使用していた。上告人は、本件手形取引に際して、当該漢字表記の名称が右訴外会社を指すものであることを知っていた。
あてはめ
本件では、振出人として記載された名称は、訴外会社が営業上および手形取引において常時使用していたものである。相手方である上告人も、その名称が訴外会社を指すものであることを知っていた以上、振出人の同一性に疑いはなく、表示の不一致は手形行為の効力を妨げない。上告人が登記簿上の正確な名称を知っていたか、あるいはその名称が一般に周知であったかは、結論を左右しない。
結論
本件手形の振出は有効であり、上告人の請求は排斥される。
実務上の射程
手形行為の厳格な要式性に関連し、振出人の名称記載が登記と僅かに異なる場合の有効性を判断する際の射程を示す。通称の使用が常態化しており、相手方がその実体を認識している(悪意)場合には、表示の正確性よりも取引の実態を優先して有効性を認める。答案上は、手形行為の有効要件としての振出人署名の有効性を論じる際の補強材料として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)455 / 裁判年月日: 昭和33年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他人の氏名(称呼)を取引上慣用している者が、その他人の名義で約束手形を振り出した場合、その称呼と同一氏名の他人が実在するか否かにかかわらず、振出人本人が手形債務を負担する。 第1 事案の概要:上告人は、被上告会社との間で証券の委託売買取引を行っていた。その際、上告人は「D」または「A」という他人の…