判旨
約束手形において受取人として実在しない株式会社の商号を記載したとしても、取引上株式会社と認められる名称であれば手形要件の欠陥とはならず、その後の代表者名義による裏書も連続性を有する。
問題の所在(論点)
実在しない会社を受取人として記載した手形が、手形法1条6号にいう「受取人の名称」の記載を欠くものとして無効となるか。また、実在しない会社名義による裏書の連続性が認められるか。
規範
約束手形のような形式証券においては、受取人の記載として取引上株式会社と認めるに足りる商号が記載されていれば、手形要件を充足するものと解すべきである。また、受取人名義に付記された代表者名の記載権限の有無等は、手形振出の効力に影響を及ぼさない。
重要事実
本件約束手形の振出人は、受取人欄に実際には存在しない「D工業株式会社」と記載し、その次行に「代表E殿」と付記して手形を振り出した。その後、Eが「D工業株式会社の代表者」として同社名義で第一裏書を行い、手形が流通した。
あてはめ
本件では受取人として「D工業株式会社」という商号が記載されており、これは取引上株式会社と認めるに足りる名称である。したがって、実際には当該会社が存在しないとしても、手形要件としての受取人の記載に欠けるところはない。また、付記された「代表E殿」の記載権限等は振出の効力を左右せず、Eが同社代表者として裏書を行っている以上、形式的な裏書の連続も維持されているといえる。
結論
本件手形の振出は有効であり、かつ裏書の連続性も認められるため、手形上の権利行使は妨げられない。
実務上の射程
手形の形式性を重視し、実在しない名称の記載であっても形式的に整っていれば有効とする判断。裏書の連続性(手形法16条1項)の判断においても、実体的な権利関係や実在性ではなく、券面上の形式的つながりを重視する実務指針となる。
事件番号: 昭和29(オ)603 / 裁判年月日: 昭和30年9月23日 / 結論: 棄却
手形の裏書中に実在しない会社の裏書が介在しているからといつて連続を欠くとはいえない。