民訴法第三八七条は、判決の成立手続が違法な場合を規定しているのであつて、判決内容が弁論主義に違背している場合には適用されない。
民訴法第三八七条の法意
民訴法387条
判旨
主要事実である贈与の主張がある以上、間接事実である贈与の動機について当事者の主張しない事実を裁判所が認定しても、弁論主義に違反しない。
問題の所在(論点)
権利の発生に直接関わる主要事実(本件では贈与の事実)の主張がある場合に、その前提となる間接事実(本件では贈与の動機)について、裁判所が当事者の主張しない事実を認定することは弁論主義に反するか。
規範
弁論主義の第1テーゼ(主張責任)が及ぶ対象は、権利の発生・変更・消滅という法律効果の発生に直接必要な事実(主要事実)に限定される。これに対し、主要事実の存否を推認させるための資料にすぎない事実(間接事実)については、当事者の主張を待つことなく、証拠に基づいて裁判所が自由な心証により認定することが可能である。
重要事実
被上告人は、D(第三者)が上告人から本件土地賃借権および地上建物の贈与を受けたという事実を主張して争っていた。原審(第一審を引用)は、当該贈与の存在を認定するにあたり、当事者が主張していなかった「贈与の動機」に関する事実を認定し、それらを間接事実として贈与の事実を事実上推定した。これに対し、上告人は当事者の主張しない事実を認定したことは弁論主義に反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和38(オ)273 / 裁判年月日: 昭和38年12月17日 / 結論: 破棄差戻
相当期間を経過しても滞納地代を支払はないときは賃貸借の解除権が発生する旨の合意が成立した事実を認定したうえ、相当期間内に右支払をしなかつたことにより賃貸借契約は解除されたと判断した場合に、右合意成立の事実が当事者によつて主張されていない以上、当事者の主張しない事実に基づいて判決した違法があるといわざるをえない。
あてはめ
本件において、被上告人は「Dが上告人から贈与を受けた」という主要事実を主張している。裁判所が認定した「贈与の動機」は、この贈与という主要事実の存否を推認するための間接事実にすぎない。弁論主義は主要事実にのみ適用されるため、主要事実の主張がある以上、裁判所が証拠等に基づき、当事者の主張しない間接事実を認定して主要事実の推認に用いることは適法である。したがって、原審の認定手続に弁論主義違反の違法は認められない。
結論
弁論主義に反しない。主要事実の主張がある限り、裁判所が当事者の主張しない間接事実を認定することは許される。
実務上の射程
弁論主義の適用範囲が主要事実に限られることを示す基本判例である。答案上では、裁判所が予期せぬ事実を認定した際の適法性を論じる文脈で、主要事実と間接事実を区別し、本判例を根拠に「間接事実に弁論主義は適用されない」と論述する際に用いる。
事件番号: 昭和38(オ)606 / 裁判年月日: 昭和39年8月20日 / 結論: 棄却
甲が乙に対し賃借権譲渡の承諾をした旨の主張がなされた場合に、裁判所が、甲代理人丙が乙に対し賃借権譲渡を承諾したと認定しても、弁論主義に反するとはいえない。
事件番号: 昭和28(オ)230 / 裁判年月日: 昭和30年4月21日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】当事者が抗弁として主張していない事実(示談による土地使用権の存在)を裁判所が認定し、それを根拠に請求を棄却することは、弁論主義に違反し許されない。 第1 事案の概要:上告人(所有者)が被上告人らに対し、建物収去土地明渡を請求した。被上告人らは「賃借権譲渡の承諾を受けた」との抗弁を主張したが、原審は…
事件番号: 昭和36(オ)912 / 裁判年月日: 昭和37年2月22日 / 結論: 棄却
昭和二〇年一〇月頃権利金として四、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借した旨の主張に対し、昭和二一年九月頃権利金として一、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借したとの認定をしても、当事者の主張の範囲を逸脱した認定とはいえない。
事件番号: 昭和36(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年10月3日 / 結論: 棄却
原裁判所の裁判が公正妥当を欠くものであるとしても、裁判所において裁判を受ける権利を奪われたものとはいえないから、右裁判が憲法第三二条に違反したとはいえない(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、刑集二巻五号五一一頁、昭和二三年(れ)第五一二号同二四年三月二三日大法廷判決、刑集三巻三号三五二頁参照)。