昭和二〇年一〇月頃権利金として四、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借した旨の主張に対し、昭和二一年九月頃権利金として一、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借したとの認定をしても、当事者の主張の範囲を逸脱した認定とはいえない。
認定判示が当事者の主張の範囲を逸脱していないとされた事例
民訴法186条
判旨
当事者が主張した事実と裁判所が認定した事実に一定の相違があっても、それが主張の範囲内といえる程度であれば、弁論主義に反せず、釈明権を行使する義務も生じない。
問題の所在(論点)
当事者の主張(昭和20年10月、権利金4,000円)と裁判所の認定事実(昭和21年9月、権利金1,000円)に相違がある場合、それが弁論主義に抵触するか。また、裁判所はその相違について釈明すべき義務を負うか。
規範
裁判所は、当事者の主張していない事実を判決の基礎にすることはできない(弁論主義第1余白)。ただし、認定された事実が当事者の主張の範囲内(主要事実の枠組みの中)にあるといえる程度の喰い違いであれば、裁判所は特段の釈明を要することなくその事実を認定することができる。
重要事実
被告(賃借人)は、昭和20年10月頃に権利金4,000円を支払い、土地80坪を賃借したと主張した。これに対し、第一審および原審は、被告本人の供述等の証拠に基づき、被告が昭和21年9月頃に権利金1,000円を支払って同一の土地を賃借した事実を認定した。原告(賃貸人)は、この主張と認定の喰い違いについて、裁判所に釈明義務違反等があると主張して上告した。
事件番号: 昭和36(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年10月3日 / 結論: 棄却
原裁判所の裁判が公正妥当を欠くものであるとしても、裁判所において裁判を受ける権利を奪われたものとはいえないから、右裁判が憲法第三二条に違反したとはいえない(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、刑集二巻五号五一一頁、昭和二三年(れ)第五一二号同二四年三月二三日大法廷判決、刑集三巻三号三五二頁参照)。
あてはめ
本件における賃貸借契約の成立時期や権利金の額に関する主張と認定の喰い違いは、賃貸借関係の存否という主要事実の枠組みを逸脱するものではない。この程度の相違は、当事者が主張する事実の具体的態様の範囲内にあると評価できる。したがって、裁判所が当事者の主張と多少異なる年月や金額を認定したとしても、それは当事者の主張の範囲内での事実認定であり、釈明権を行使して当事者に確認させる必要はないと解される。
結論
主張と認定の喰い違いが当事者の主張の範囲内である以上、裁判所に釈明義務違反はなく、認定は適法である。
実務上の射程
弁論主義の下での事実認定において、日時や金額等の細部の不一致が直ちに釈明義務違反や違法な認定(主張外の事実認定)となるわけではないことを示す。答案上では、要件事実の認定において証拠に基づき微修正して認定する場合の許容範囲を示す根拠として活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)326 / 裁判年月日: 昭和32年10月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が提出した書面等に記載があるのみで、事実審の弁論等において適切に主張されなかった事項については、裁判所は釈明権を行使してその主張を明確にさせる義務を負わない。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地の昭和25年7月当時の賃料統制額や土地等級に関する主張を答弁書に記載していた。しかし、第一審判決…
事件番号: 昭和34(オ)920 / 裁判年月日: 昭和35年12月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解除後に生じた不当利得ないし損害賠償としての賃料相当額の算定において、当事者間に争いのない約定賃料額を基準とすることは適法であり、上告審で初めて主張された統制額等の考慮を欠いたとしても違法ではない。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)との間の土地賃貸借契約が解除さ…
事件番号: 昭和31(オ)336 / 裁判年月日: 昭和32年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が行った売買の合意に関する陳述が、弁論の全趣旨に照らして所有権移転を伴わない契約を意味すると解される場合には、自己の所有でないことを自白したものとは認められない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)の代理人が、第一審において「原告と訴外Dとの間で本件土地の売買約束が成立し、引渡期限は本件訴訟…
事件番号: 昭和32(オ)189 / 裁判年月日: 昭和35年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が主張した損害賠償請求の範囲が特定の費目に限定されている場合、それとは別の損害(賃料相当損害等)を別個の請求として明確に主張した形跡がない限り、裁判所が当該損害について判断しなくても判断遺脱の違法はなく、釈明義務も負わない。 第1 事案の概要:上告人(原告)は、競落した宅地および家屋を転売で…