判旨
当事者が行った売買の合意に関する陳述が、弁論の全趣旨に照らして所有権移転を伴わない契約を意味すると解される場合には、自己の所有でないことを自白したものとは認められない。
問題の所在(論点)
当事者が行った「売買約束」の成立に関する陳述が、自己の所有権を否定する事実(または権利の帰属)についての訴訟上の自白に該当するか。
規範
訴訟上の自白の成否を判断するにあたっては、当該陳述の文言のみならず、前後の主張の推移を含む弁論の全趣旨に照らして、その陳述が相手方の主張する事実を認める趣旨であるかを解釈すべきである。特に所有権の帰属が争点となる場合、売買に関する陳述が直ちに所有権の喪失を認める趣旨の自白(権利自白ないし主要事実の自白)にあたるかは、当該契約が所有権移転を伴うものか、あるいは単なる予約等の債権契約に留まるものかを慎重に判断しなければならない。
重要事実
被上告人(原告)の代理人が、第一審において「原告と訴外Dとの間で本件土地の売買約束が成立し、引渡期限は本件訴訟解決後となっている」旨を陳述した。これに対し上告人(被告)は、被上告人が土地を第三者に売却処分し、現在は所有権を有していないことを自白したものであると主張して、被上告人の所有権を否定する根拠とした。
あてはめ
被上告人は、当該陳述の前後を通じて本件土地が自己の所有であるとの主張を一貫して堅持している。このような弁論の全趣旨に照らせば、陳述中に現れた「売買約束」という用語は、直ちに所有権の移転を伴う処分行為を指すものではなく、売買の予約ないし引渡期限を将来に設定した所有権移転を伴わない単なる債権契約を意味するものと解するのが相当である。したがって、被上告人が自己の所有権を否定する事実を認めたとはいえない。
結論
被上告人の陳述を自白と解すべきではないとした原審の判断は正当であり、自白の成立を前提とする上告人の主張は理由がない。
事件番号: 昭和28(オ)646 / 裁判年月日: 昭和30年4月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、証拠調べの結果のみならず、弁論の全趣旨をも斟酌して事実を認定することができる。したがって、特定の土地の占有という事実を、証拠によらず弁論の全趣旨のみから認定することも適法である。 第1 事案の概要:上告人らは、原審が特定の土地(20坪の部分)の占有という事実を、直接の証拠に基づかず「弁論…
実務上の射程
弁論の全趣旨(民訴法247条)による陳述内容の合理的な解釈を認めた事例。答案上では、一見すると自白に見える陳述であっても、他の主張との矛盾がある場合に、弁論の全趣旨を用いてその法的意味を限定的に解釈し、自白の成立を否定する際の論法として活用できる。
事件番号: 昭和42(オ)1441 / 裁判年月日: 昭和43年6月6日 / 結論: 棄却
土地の不法占有を原因とする賃料額相当の損害金請求訴訟において、原告が右相当賃料額を一ケ月金一、〇九〇円と主張したのに対し、被告はいつたん右主張を認めたが、控訴審にいたつてこれを争い、その金額を一ケ月金一、〇八九円である旨主張する等判示のような事情が存在する場合には、右被告の主張の態度、変更後の陳述の内容その他本件に表わ…
事件番号: 昭和35(オ)1037 / 裁判年月日: 昭和36年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】口頭弁論において当事者間に争いのない事実は自白としての効力を有し、裁判所はこれに拘束される。そのため、提出された証拠の記載が自白の内容と矛盾する場合であっても、裁判所は自白に反する事実認定を行うことはできない。 第1 事案の概要:本件土地の所有権について、被上告人の所有に属する事実が第一審判決の事…
事件番号: 昭和34(オ)877 / 裁判年月日: 昭和36年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者にとって不利益な事実を認める陳述は裁判上の自白に該当し、その撤回は、自白が真実、かつ、錯誤に基づくことが証明された場合に限られる。 第1 事案の概要:本件土地賃貸借を巡る訴訟において、被告(上告人)は第一審において、本件土地の賃借人および地上建物の所有者が自身ではなく、一審の共同被告(D)で…
事件番号: 昭和36(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年10月3日 / 結論: 棄却
原裁判所の裁判が公正妥当を欠くものであるとしても、裁判所において裁判を受ける権利を奪われたものとはいえないから、右裁判が憲法第三二条に違反したとはいえない(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、刑集二巻五号五一一頁、昭和二三年(れ)第五一二号同二四年三月二三日大法廷判決、刑集三巻三号三五二頁参照)。