土地の不法占有を原因とする賃料額相当の損害金請求訴訟において、原告が右相当賃料額を一ケ月金一、〇九〇円と主張したのに対し、被告はいつたん右主張を認めたが、控訴審にいたつてこれを争い、その金額を一ケ月金一、〇八九円である旨主張する等判示のような事情が存在する場合には、右被告の主張の態度、変更後の陳述の内容その他本件に表われた訴訟資料を弁論の全趣旨として斟酌し、右相当賃料額を一ケ月金一、〇九〇円と認定しても、右事実認定をもつて違法ということはできない。
弁論の全趣旨のみによる事実認定が違法でないとされた事例
民訴法185条
判旨
弁論の全趣旨は独立の証拠原因となり得るため、裁判所が証拠調べによらず、当事者の訴訟上の態度や陳述内容等を弁論の全趣旨として斟酌し、事実を認定することは許される。
問題の所在(論点)
証拠調べによらず、弁論の全趣旨のみに基づいて損害額算定の基礎となる事実(相当賃料額)を認定することが許されるか。弁論の全趣旨の証拠原因としての独立性が問題となる。
規範
弁論の全趣旨(民事訴訟法247条)は、証拠調べの結果とは別に、独立の証拠原因となり得る。したがって、裁判所は、口頭弁論に現れた一切の資料や当事者の態度、陳述の変遷等を総合的に考慮して、主要事実を認定する基礎とすることができる。
重要事実
被上告人が上告人に対し、不法占有に基づく損害賠償を請求した事案において、損害額算定の基礎となる相当賃料額につき、被上告人は月額1,090円と主張した。これに対し上告人は、第一審では争わなかったが、原審(控訴審)に至って計算根拠を明らかにせず、時期によって919円から1,089円の間で変動する旨を主張し始めた。原審は、上告人が当初争わなかった態度や変更後の陳述内容等を「弁論の全趣旨」として斟酌し、相当賃料額を被上告人主張通りの額と認定した。
事件番号: 昭和28(オ)646 / 裁判年月日: 昭和30年4月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、証拠調べの結果のみならず、弁論の全趣旨をも斟酌して事実を認定することができる。したがって、特定の土地の占有という事実を、証拠によらず弁論の全趣旨のみから認定することも適法である。 第1 事案の概要:上告人らは、原審が特定の土地(20坪の部分)の占有という事実を、直接の証拠に基づかず「弁論…
あてはめ
本件では、上告人が第一審において被上告人の主張する賃料額を争わなかったという「訴訟上の態度」が存在する。また、原審で主張を翻した際も、その計算根拠を具体的に示していない。これらの態度は、口頭弁論において裁判官に形成された心証として「弁論の全趣旨」に含まれる。原審が、これらの訴訟資料を総合的に判断して、被上告人主張の金額を事実として認定したことは、自由心証主義の範囲内として適法であると解される。
結論
弁論の全趣旨を独立の証拠原因として事実認定を行うことは適法であり、原審の事実認定に違法はない。
実務上の射程
弁論の全趣旨による事実認定の限界を示す。実務上、証拠が乏しい場合であっても、相手方の訴訟態度の矛盾や陳述の変遷を弁論の全趣旨として拾い上げ、事実認定の補強や主要事実の認定に活用できることを示した射程の広い判例である。
事件番号: 昭和31(オ)336 / 裁判年月日: 昭和32年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が行った売買の合意に関する陳述が、弁論の全趣旨に照らして所有権移転を伴わない契約を意味すると解される場合には、自己の所有でないことを自白したものとは認められない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)の代理人が、第一審において「原告と訴外Dとの間で本件土地の売買約束が成立し、引渡期限は本件訴訟…
事件番号: 昭和40(オ)1491 / 裁判年月日: 昭和41年5月31日 / 結論: 棄却
土地の借主が無償使用に気がとがめ、盆暮に各一万円、その後各二万円づつの現金またはギフトチエツクを貸主に手渡していたが、右金員が貸主との約定によるものでなく、借主側で一方的のその額と支払時期とを定めたものであり、かつ、その金額は賃料額に比して些細なものであつたことが認められる等原判示事情(原判決理由参照)のもとにおいては…
事件番号: 昭和34(オ)920 / 裁判年月日: 昭和35年12月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解除後に生じた不当利得ないし損害賠償としての賃料相当額の算定において、当事者間に争いのない約定賃料額を基準とすることは適法であり、上告審で初めて主張された統制額等の考慮を欠いたとしても違法ではない。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)との間の土地賃貸借契約が解除さ…
事件番号: 昭和39(オ)848 / 裁判年月日: 昭和40年10月5日 / 結論: 棄却
供託書の記載を司法書士に依頼するに際し、法律知識のとぼしい普通の人間は、法律専門職である司法書士に対し供託原因の記載内容まで指示することは通常期待できない、という経験則はない。