判旨
賃貸借契約の解除後に生じた不当利得ないし損害賠償としての賃料相当額の算定において、当事者間に争いのない約定賃料額を基準とすることは適法であり、上告審で初めて主張された統制額等の考慮を欠いたとしても違法ではない。
問題の所在(論点)
賃貸借契約解除後の賃料相当損害金の算定において、当事者が事実審で主張しなかった統制額等の事情を、裁判所が職権で考慮すべきか。また、事実審で争いのなかった事実と異なる主張を上告審ですることが許されるか。
規範
賃貸借終了後の目的物使用による不当利得(または損害賠償)の額については、特段の事情がない限り、従前の約定賃料額を基準として算定するのが相当である。また、民事訴訟の変論主義に基づき、裁判所は当事者が主張しない事実や争いのない事実と矛盾する事実を基礎として判決を下すことはできない。
重要事実
上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)との間の土地賃貸借契約が解除された後も土地の占有を継続した。一審および原審は、契約解除の意思表示が到達した事実、および約定賃料が月額1,000円である事実について当事者間に争いがないことを確認し、契約終了までは約定賃料の、終了後は明渡しまで同額の損害金の支払いを命じた。これに対し上告人は、上告審において初めて、統制地代の額を考慮すべきであることや、実際の転貸に関与していないこと等を主張して争った。
あてはめ
本件では、賃貸借契約解除の意思表示が上告人に到達した事実は当事者間に争いがなく、契約終了は適法に認められる。また、損害金の基礎となる賃料額についても、月額1,000円である事実は一審以来争いがない。上告人が主張する「統制地代の額」や「妻の行為であること」といった事実は原審において主張されておらず、変論主義の観点からこれらを考慮しなかった原判決に審理不尽等の違法はない。約定賃料額を基準とした損害金算定は論理的に妥当である。
結論
上告審において初めてなされた事実主張は採用できず、当事者間に争いのない約定賃料額に基づき賃料相当損害金の支払いを命じた原判決は正当であるとして、本件上告を棄却する。
事件番号: 昭和35(オ)53 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法1条3項の権利濫用について、契約解除権の行使が権利の濫用にあたると解すべき根拠となる事実が認められない場合には、当該解除は有効である。原審が確定した事実関係の範囲内では、解除権の行使を不当とする事情がなく、権利濫用には当たらないとした判断を維持した。 第1 事案の概要:本件は契約の解除権行使の…
実務上の射程
賃料相当損害金の算定において、実務上、約定賃料を基準とすることの合理性を裏付ける。また、事実審における自白(または争いのない事実)の拘束力および上告審における新主張禁止の原則を確認する際、民事訴訟法の基本原則(変論主義)の具体例として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)1070 / 裁判年月日: 昭和35年3月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が賃借権の譲渡について権利金の支払や地代の増額を要求したとしても、その事実のみから当然に譲渡の承諾があったとはいえず、また、その後の明渡請求が直ちに権利の濫用にあたるわけではない。 第1 事案の概要:土地所有権を取得した被上告人(賃貸人)が、上告人(賃借人)に対し、賃借権の譲渡に関連して権利…
事件番号: 昭和35(オ)850 / 裁判年月日: 昭和36年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物賃貸借の更新拒絶に必要な「正当な事由」の有無は、賃貸人および賃借人双方の利害得失を比較考量して判断すべきである。賃貸人が賃料受領を明確に拒絶しているなどの事情がある場合、更新拒絶を認めるに足りる正当事由があるとは認められない。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)が、賃借人(被上告人)に対し、建…
事件番号: 昭和36(オ)912 / 裁判年月日: 昭和37年2月22日 / 結論: 棄却
昭和二〇年一〇月頃権利金として四、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借した旨の主張に対し、昭和二一年九月頃権利金として一、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借したとの認定をしても、当事者の主張の範囲を逸脱した認定とはいえない。
事件番号: 昭和36(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年10月3日 / 結論: 棄却
原裁判所の裁判が公正妥当を欠くものであるとしても、裁判所において裁判を受ける権利を奪われたものとはいえないから、右裁判が憲法第三二条に違反したとはいえない(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、刑集二巻五号五一一頁、昭和二三年(れ)第五一二号同二四年三月二三日大法廷判決、刑集三巻三号三五二頁参照)。