原裁判所の裁判が公正妥当を欠くものであるとしても、裁判所において裁判を受ける権利を奪われたものとはいえないから、右裁判が憲法第三二条に違反したとはいえない(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、刑集二巻五号五一一頁、昭和二三年(れ)第五一二号同二四年三月二三日大法廷判決、刑集三巻三号三五二頁参照)。
具体的事件につき原裁判所のした裁判が公正妥当を欠くとの主張と憲法第三二条。
憲法32条
判旨
裁判所が請求原因として主張されていない事実に基づき判断したとしても、それが請求原因に関連する抗弁等の主張・立証の経緯から導かれる帰結であるならば、処分権主義に反する違法な判決とはいえない。
問題の所在(論点)
裁判所が当事者の主張していない事実に基づき、請求原因外で原告に有利な判決を下したことが、処分権主義に違反するか(民訴法246条等の違法があるか)。
規範
民事訴訟における処分権主義(民訴法246条参照)の下、裁判所は当事者の主張しない事実を基礎に判決をすることはできない。しかし、判決の基礎となった事実が、当事者の主張する請求原因そのものではなくとも、訴訟の過程で現れた抗弁やその他の主張・立証の経緯(判示の経緯)に照らして合理的であり、実質的に当事者の主張の範囲内にあると認められる場合には、申立て外の裁判をした違法があるとはいえない。
重要事実
被上告人(原告)が上告人(被告)に対し、土地所有権に基づき土地の明渡しを請求した事案。上告人は当該土地に使用貸借権が存在する旨の抗弁を主張して争った。原審は、当該使用貸借は特定の経緯によって解約されたと認定し、被上告人の所有権は「何ら負担のない所有権」に帰しているとして明渡しを認容した。これに対し上告人が、原審は被上告人が主張していない請求原因外の事実に基づき利益な判決をしたと主張して上告した。
事件番号: 昭和33(オ)1024 / 裁判年月日: 昭和35年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地所有者が土地の使用を容認していたとはいえない状況において、当該土地の明渡し等を求める請求は、特段の事情がない限り権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)が本件土地を使用していたところ、被上告人ら(原告)が土地所有権に基づき本訴請求(明渡し等)を提起した。上告…
あてはめ
本件において、被上告人の請求は土地所有権に基づく明渡しである。原審は、上告人が主張する使用貸借の抗弁に対し、その後の経緯から当該使用貸借が解約されていると判断した。これは、被上告人が当初から主張していた請求の根拠を、抗弁に対する判断を通じて具体化したものにすぎない。すなわち、訴訟における「判示の経緯」の下で、被上告人の所有権が負担のない完全なものになったと判断することは、被上告人が第1審から主張している請求の範囲に含まれる。したがって、請求原因外の事実を基礎とした違法はないと解される。
結論
原判決は請求原因外において被上告人に利益な判決をしたものとは言い難いため、処分権主義違反の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
裁判所が当事者の主張をどのように構成して判決の基礎とするかという「釈明権の行使」や「主張の合理的な解釈」の限界を示す。実務上は、主要事実の主張の有無が厳格に問われるが、抗弁に対する再反論的な判断が請求の基礎となる場合、それが「主張の範囲内」にあるかを確認する際の指標となる。
事件番号: 昭和33(オ)279 / 裁判年月日: 昭和33年7月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の明渡請求が権利の濫用(民法1条3項)に当たるか否かは、当該請求を認めることが社会通念上著しく正当性を欠くといえるか等の事実関係を総合考慮して判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人(被告)に対し、被上告人(原告)が本件建物の明渡しを求めた事案である。原審において認定された事実関係の詳細…
事件番号: 昭和26(オ)719 / 裁判年月日: 昭和28年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物収去土地明渡請求が権利の濫用に該当するか否かは、個別の事案における事実関係に基づいて判断される。本件のような事実関係の下では、当該請求が民法1条3項にいう権利の濫用に当たらないことは明白である。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人による本件建物の収去及び土地の明渡請求について争い、その請求が…
事件番号: 昭和36(オ)912 / 裁判年月日: 昭和37年2月22日 / 結論: 棄却
昭和二〇年一〇月頃権利金として四、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借した旨の主張に対し、昭和二一年九月頃権利金として一、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借したとの認定をしても、当事者の主張の範囲を逸脱した認定とはいえない。