供託書の記載を司法書士に依頼するに際し、法律知識のとぼしい普通の人間は、法律専門職である司法書士に対し供託原因の記載内容まで指示することは通常期待できない、という経験則はない。
司法書士に供託原因の記載内容を指示することに関する経験則
民訴法185条
判旨
事実認定において、証拠の取捨選択や証言の信用性判断は原則として原審の専権事項であり、経験則や採証法則に反しない限り、その判断は適法である。具体的には、証言内容が客観的な書面(供託書等)と齟齬する場合や、期待されるべき帳簿の不提出を理由に信用性を否定することも、経験則に反しない。
問題の所在(論点)
事実認定における裁判官の自由心証の限界、特に証人尋問や本人尋問の結果の信用性を否定する判断が、どのような場合に経験則・採証法則違背として違法となるか。
規範
事実の認定、証拠の取捨選択および証言の信用性の判断は、裁判官の自由な心証に委ねられており(民事訴訟法247条)、その判断が合理的な理由に基づき、経験則または採証法則に反しない限り、上告審がこれを覆すことはできない。特に証言の信用性を否定するに際し、記憶の不確実性や、関連する書面・帳簿との不整合を考慮することは適法な合理性を持つ。
重要事実
賃貸借契約の解除に伴う賃料支払の有無が争点となった事案である。上告人は、催告期限内に第三者による代位弁済としての現実の提供があったと主張し、銀行の支払証明書や証人の証言を援用した。しかし、原審は、提供の日時の記載がない供託書や、本来存在するはずの株式会社の帳簿が提出されていないこと、証言内容が人間の記憶として不自然であること等を理由に、上告人側の証言等の信用性を否定し、弁済の事実を認めなかった。これを不服として、上告人が経験則違背等を理由に上告した。
事件番号: 昭和38(オ)909 / 裁判年月日: 昭和39年6月25日 / 結論: 棄却
証言及び当事者本人尋問の結果の採否について具体的事由を説示することなく単にこれを措信し難いとした点に違法はない(昭和三〇年(オ)第八五一号、昭和三二年六月一一日第三小法廷判決、民集一一巻六号一〇三〇頁参照)。
あてはめ
原審は、証言が日時の点で正確でないことを記憶の不確実性から当然としつつ、それを信用性否定の一要素としている。また、供託書の記載と証言の齟齬について、重要な関心事であれば正確に記載させるはずであるという経験則に基づき判断している。さらに、代位弁済を行ったとされる株式会社の帳簿が提出されていない点も、その規模にかかわらず信用性を疑う材料とした。これらの判断は、いずれも証拠間の整合性や日常的な経験に照らして不合理とはいえず、原審の専権事項の範囲内といえる。上告人の主張は、独自の事実観に基づく原審の証拠判断への異議にすぎない。
結論
原判決の証拠判断および事実認定に経験則違背や採証法則違背の違法は認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
民事訴訟における事実認定のプロセス(自由心証主義)を検討する際の基礎的な指針となる。特に、証言の信用性を争う際に、客観的書面との齟齬や、本来存在するはずの証拠(帳簿等)の不存在を指摘する手法が、最高裁の認める「合理的な判断」の範疇であることを示している。
事件番号: 昭和36(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年10月3日 / 結論: 棄却
原裁判所の裁判が公正妥当を欠くものであるとしても、裁判所において裁判を受ける権利を奪われたものとはいえないから、右裁判が憲法第三二条に違反したとはいえない(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、刑集二巻五号五一一頁、昭和二三年(れ)第五一二号同二四年三月二三日大法廷判決、刑集三巻三号三五二頁参照)。
事件番号: 昭和36(オ)929 / 裁判年月日: 昭和37年3月9日 / 結論: 棄却
伝聞証言の証拠能力は必ずしも当然に制限されるものではなく、裁判官の自由な心証による判断に委されていると解すべきである。
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…
事件番号: 昭和48(オ)859 / 裁判年月日: 昭和49年9月20日 / 結論: 棄却
借地法四条一項但書の正当事由の有無の判断基準時を賃貸借期間終了の時とし、その後の事情を右判断基準時の事実関係を認定するための資料とした原審の認定判断は正当である。