判旨
当事者にとって不利益な事実を認める陳述は裁判上の自白に該当し、その撤回は、自白が真実、かつ、錯誤に基づくことが証明された場合に限られる。
問題の所在(論点)
裁判上の自白の成立要件である「不利益な事実」の意義、および自白の撤回の可否が問題となる。
規範
当事者にとって不利益な事実を認める陳述は裁判上の自白に該当する。裁判上の自白が成立した場合、原則として撤回は許されないが、例外的に、(1)自白が真実でないこと、および(2)錯誤によってなされたことが証明された場合には、その撤回が認められる(判旨は「真実に反することなしとした」ことで撤回を否定しており、これを示唆する)。
重要事実
本件土地賃貸借を巡る訴訟において、被告(上告人)は第一審において、本件土地の賃借人および地上建物の所有者が自身ではなく、一審の共同被告(D)であるという事実を認める陳述をした。しかし、後に上告人はこの陳述は自白に当たらないと主張し、仮に自白であっても撤回を認めなかった原審の判断を不当として上告した。
あてはめ
まず、土地賃借人および建物所有者が自分ではないと認める事実は、土地使用の正当権原を争う当事者にとって権利を否定する方向に働くため、「不利益な事実」に該当する。したがって、これを一審で認めたことは裁判上の自白となる。次に、自白の撤回について検討するに、原審において本件自白が真実に反するという事実認定がなされていない以上、撤回の要件を満たさない。上告人の主張は単なる事実認定の争いにすぎず、撤回を認めなかった原審の措置に違法はない。
結論
本件陳述は裁判上の自白に該当し、真実に反することの証明がない以上、その撤回は認められない。
実務上の射程
事件番号: 昭和35(オ)1037 / 裁判年月日: 昭和36年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】口頭弁論において当事者間に争いのない事実は自白としての効力を有し、裁判所はこれに拘束される。そのため、提出された証拠の記載が自白の内容と矛盾する場合であっても、裁判所は自白に反する事実認定を行うことはできない。 第1 事案の概要:本件土地の所有権について、被上告人の所有に属する事実が第一審判決の事…
裁判上の自白(民訴法179条)の成立要件である「不利益な事実」が、相手方が証明責任を負う事実に限らず、自ら負うべき主張立証の不利益になる事実をも含む(自己に不利な事実)ことを確認した判例である。答案上は、主要事実の存否に関する自白の拘束力および撤回の厳格な要件を論じる際に用いる。
事件番号: 昭和36(オ)134 / 裁判年月日: 昭和36年9月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】口頭弁論調書に主張を撤回する旨の陳述が記載されている場合、その記載が誤りである旨の立証がなされない限り、当該主張の撤回があったものとみなされる。 第1 事案の概要:上告人らは、原審(控訴審)の第2回口頭弁論において、代理人を通じて「従来の地上権に基づく主張は当審において撤回する」旨の準備書面を陳述…
事件番号: 昭和31(オ)336 / 裁判年月日: 昭和32年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が行った売買の合意に関する陳述が、弁論の全趣旨に照らして所有権移転を伴わない契約を意味すると解される場合には、自己の所有でないことを自白したものとは認められない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)の代理人が、第一審において「原告と訴外Dとの間で本件土地の売買約束が成立し、引渡期限は本件訴訟…
事件番号: 昭和33(オ)529 / 裁判年月日: 昭和36年12月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白がなされた後であっても、相手方が自白の撤回に対して異議を述べなかった場合には、その自白の撤回は有効となる。したがって、裁判所は当該事実を争いのある事実として取り扱わなければならない。 第1 事案の概要:土地所有者であると主張する被上告人が、賃借人とされる上告人に対し賃料を請求した事案。…
事件番号: 昭和34(オ)1174 / 裁判年月日: 昭和37年10月2日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】賃借権の譲渡・転貸につき、単に建物に会社名の看板を掲げ、賃料を会社振出の小切手で支払ったという事実のみでは、特段の事情がない限り、地主が当該譲渡等を黙認・承諾したとは認められない。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)は、賃借人(D)との間で宅地賃貸借契約を締結していた。Dは同族会社(B5鉄工所)を…