判旨
裁判上の自白がなされた後であっても、相手方が自白の撤回に対して異議を述べなかった場合には、その自白の撤回は有効となる。したがって、裁判所は当該事実を争いのある事実として取り扱わなければならない。
問題の所在(論点)
裁判上の自白(土地所有権の承認)がなされた後、当事者がこれを否認する主張をした場合に、相手方が特段の異議を述べていないとき、自白の撤回は認められるか。
規範
裁判上の自白(民訴法179条参照)が成立した場合、原則として撤回は許されないが、例外として(1)相手方の同意(異議なき場合を含む)があるとき、(2)自白が真実に反し、かつ錯誤に基づいたものであるとき等には、その撤回が認められる。
重要事実
土地所有者であると主張する被上告人が、賃借人とされる上告人に対し賃料を請求した事案。一審において上告人は答弁書により被上告人の土地所有権を認める陳述をしていたが、一審最終盤の準備書面において「被上告人は所有権を有しないから請求は理由がない」旨を記載し、被上告人の所有権を否認するに至った。原審はこの経緯に関わらず、上告人が所有権取得を争っていないものとして賃料支払を命じた。
あてはめ
上告人の準備書面の記載は、一度認めた所有権を否認するものであり、その性質は自白の撤回に当たる。これに対し、被上告人が上告人の陳述後に異議を述べた形跡は認められない。そうであるならば、相手方の黙示の同意があったものと同視でき、自白の撤回は有効に成立したと解すべきである。にもかかわらず、原審が当該事実を「争いのない事実」として取り扱ったことは、自白の撤回の法理を誤解し、事実認定の前提を誤った違法がある。
結論
自白の撤回は有効であり、原判決には争いのある事実を争いのない事実とした違法があるため、上告人敗訴部分を破棄し差し戻すべきである。
事件番号: 昭和33(オ)801 / 裁判年月日: 昭和36年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地権譲渡における賃貸人の黙示的承認の有無について、個別の主張事実を排斥した上でそれらを総合しても承認の事実は認められないとした原判決に違法はない。 第1 事案の概要:上告人は、賃貸人から借地権譲渡について黙示的な承認を得たと主張した。これに対し、原審(控訴審)は上告人が主張した各事実について個別…
実務上の射程
自白の撤回に関する「相手方の同意」を柔軟に認める判例である。答案上では、自白の撤回の可否が問題となる場面で、(1)反真実・錯誤の要件を検討するだけでなく、(2)相手方の訴訟態度から「異議がない=同意」の構成が可能かを確認するために用いる。
事件番号: 昭和33(オ)229 / 裁判年月日: 昭和34年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約において転貸・譲渡が書面による承諾を要する旨約定されている場合、長期間異議を述べなかった等の事情があっても、直ちに黙示の承諾があったとは認められない。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)と賃借人(D)との間の賃貸借契約には、書面による承諾のない転貸・譲渡を禁止する条項が存在した。その後…
事件番号: 昭和34(オ)877 / 裁判年月日: 昭和36年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者にとって不利益な事実を認める陳述は裁判上の自白に該当し、その撤回は、自白が真実、かつ、錯誤に基づくことが証明された場合に限られる。 第1 事案の概要:本件土地賃貸借を巡る訴訟において、被告(上告人)は第一審において、本件土地の賃借人および地上建物の所有者が自身ではなく、一審の共同被告(D)で…
事件番号: 昭和39(オ)573 / 裁判年月日: 昭和40年12月2日 / 結論: 棄却
訴の変更があつた場合においては、従前の訴訟資料はそのまま引きつがれると解するのが相当である。
事件番号: 昭和36(オ)134 / 裁判年月日: 昭和36年9月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】口頭弁論調書に主張を撤回する旨の陳述が記載されている場合、その記載が誤りである旨の立証がなされない限り、当該主張の撤回があったものとみなされる。 第1 事案の概要:上告人らは、原審(控訴審)の第2回口頭弁論において、代理人を通じて「従来の地上権に基づく主張は当審において撤回する」旨の準備書面を陳述…