判旨
当事者が提出した書面等に記載があるのみで、事実審の弁論等において適切に主張されなかった事項については、裁判所は釈明権を行使してその主張を明確にさせる義務を負わない。
問題の所在(論点)
当事者の書面(答弁書)に記載があるものの、判決の事実摘示に含まれず、口頭弁論でも適切に維持されなかった主張について、裁判所に釈明権を行使して主張を明確化させる義務があるか(民事訴訟法旧127条、現149条)。
規範
裁判所は、当事者が第一審の答弁書等に記載したのみで、第一審判決の事実に掲げられず、かつ第二審の口頭弁論においても維持・援用されなかった事項についてまで、釈明権を行使して当事者の主張を明確にさせるべき義務を負うものではない。
重要事実
上告人は、本件土地の昭和25年7月当時の賃料統制額や土地等級に関する主張を答弁書に記載していた。しかし、第一審判決の事実摘示にはこれらの主張が記載されず、第二審においても、第一審判決の事実摘示を基礎として弁論が行われていた。その後、土地賃料の統制撤廃等を経て賃料が増額されたことに対し、上告人はこれが暴利である旨を主張して争った。
あてはめ
本件において、上告人が主張する賃料統制額や等級に関する事実は、答弁書への記載に留まり、第一審判決の事実認定に反映されていない。また、第二審においても第一審の事実摘示を前提に弁論が行われており、適法な主張として継続されていたとは認められない。さらに、昭和25年7月11日以降は土地賃料の統制が撤廃されている事実がある。したがって、裁判所が釈明権を用いてあえてこれらの主張を拾い上げるべき義務があるとは認められず、認定された事実関係の下で賃料増額を暴利ではないとした原審の判断に違法はない。
結論
裁判所に釈明権行使の義務はなく、上告人の主張は採用できない。本件上告を棄却する。
事件番号: 昭和37(オ)106 / 裁判年月日: 昭和38年6月7日 / 結論: 棄却
一 準備書面の第一審口頭弁論期日における陳述がなされなかつたからといつて、控訴審でこれに記載されている主張をするかどうかを確かめる釈明義務はない。 二 (省略)
実務上の射程
弁論主義の下での釈明権の限界を示す。当事者が提出した準備書面や答弁書に記載があっても、それが口頭弁論で適切に述べられず、または判決の事実摘示から漏れている場合に、裁判所が当然に釈明義務を負うわけではないことを確認する際に活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)912 / 裁判年月日: 昭和37年2月22日 / 結論: 棄却
昭和二〇年一〇月頃権利金として四、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借した旨の主張に対し、昭和二一年九月頃権利金として一、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借したとの認定をしても、当事者の主張の範囲を逸脱した認定とはいえない。
事件番号: 昭和32(オ)189 / 裁判年月日: 昭和35年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が主張した損害賠償請求の範囲が特定の費目に限定されている場合、それとは別の損害(賃料相当損害等)を別個の請求として明確に主張した形跡がない限り、裁判所が当該損害について判断しなくても判断遺脱の違法はなく、釈明義務も負わない。 第1 事案の概要:上告人(原告)は、競落した宅地および家屋を転売で…
事件番号: 昭和34(オ)710 / 裁判年月日: 昭和36年7月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が釈明権を行使しなかったとしても、他の証拠により事実認定が維持される場合には、判決の結果に影響を及ぼすべき違法があるとはいえない。 第1 事案の概要:上告人は、本件係争地を買い受けたと主張したが、原審は証拠に基づき、上告人が被上告人の先代から土地を賃借したものであると認定した。上告人は、永代…
事件番号: 昭和38(オ)909 / 裁判年月日: 昭和39年6月25日 / 結論: 棄却
証言及び当事者本人尋問の結果の採否について具体的事由を説示することなく単にこれを措信し難いとした点に違法はない(昭和三〇年(オ)第八五一号、昭和三二年六月一一日第三小法廷判決、民集一一巻六号一〇三〇頁参照)。