甲が乙に対し賃借権譲渡の承諾をした旨の主張がなされた場合に、裁判所が、甲代理人丙が乙に対し賃借権譲渡を承諾したと認定しても、弁論主義に反するとはいえない。
賃借権譲渡の承諾が代理人によつてなされたとの主張の要否。
民訴法186条,民訴法185条
判旨
当事者が特定の法律行為の存在を主張している場合、裁判所がその代理人による法律行為があったと認定することは弁論主義に反しない。
問題の所在(論点)
当事者が「Aが法律行為をした」と主張している場合に、裁判所が「Aの代理人Bが法律行為をした」と認定することが、当事者の主張しない事実を認定したとして弁論主義に違反するか。
規範
当事者が「本人自ら法律行為をした」旨を主張している場合であっても、裁判所が証拠に基づき「本人の代理人が当該法律行為をした」という事実を認定することは、弁論主義の第1テーゼ(裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎にできない)に抵触しない。
重要事実
被上告人(賃借人側)が、本件借地権譲渡について上告人(賃貸人・地主)の承諾があったと主張した事案において、原審は、上告人本人ではなくその代理人である妻Dが承諾した旨を認定した。これに対し上告人は、被上告人が主張していない「代理人による承諾」という事実を裁判所が認定したことは、弁論主義に違反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和40(オ)481 / 裁判年月日: 昭和41年6月17日 / 結論: 棄却
民訴法第三八七条は、判決の成立手続が違法な場合を規定しているのであつて、判決内容が弁論主義に違背している場合には適用されない。
あてはめ
弁論主義の目的は、当事者の予測可能性の確保と不意打ち防止にある。特定の法律行為(本件では借地権譲渡の承諾)の存否が争点となっている場合、その行為が本人によるものか代理人によるものかは、当該法律行為の法的効果を発生させるための態様に過ぎない。したがって、当事者が法律行為の存在を主張している以上、その行為が代理人によってなされたと認定することは、当事者の主張の範囲内にあるといえ、不意打ちには当たらない。
結論
本件借地権譲渡の承諾について、当事者の主張に基づき代理人による承諾の事実を認定した原判決に弁論主義違背の違法はない。
実務上の射程
主要事実と間接事実の区別において、代理関係の有無(代理権授与等)を主要事実と捉える構成もあり得るが、本判例は「法律行為の成立」という主要事実の枠内での認定として許容する。答案上は、主張された法的効果を発生させる事実と認定された事実が、社会通念上同一の法的構成の範囲内にあるかを検討する際の根拠となる。
事件番号: 昭和33(オ)801 / 裁判年月日: 昭和36年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地権譲渡における賃貸人の黙示的承認の有無について、個別の主張事実を排斥した上でそれらを総合しても承認の事実は認められないとした原判決に違法はない。 第1 事案の概要:上告人は、賃貸人から借地権譲渡について黙示的な承認を得たと主張した。これに対し、原審(控訴審)は上告人が主張した各事実について個別…
事件番号: 昭和28(オ)230 / 裁判年月日: 昭和30年4月21日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】当事者が抗弁として主張していない事実(示談による土地使用権の存在)を裁判所が認定し、それを根拠に請求を棄却することは、弁論主義に違反し許されない。 第1 事案の概要:上告人(所有者)が被上告人らに対し、建物収去土地明渡を請求した。被上告人らは「賃借権譲渡の承諾を受けた」との抗弁を主張したが、原審は…
事件番号: 昭和36(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年10月3日 / 結論: 棄却
原裁判所の裁判が公正妥当を欠くものであるとしても、裁判所において裁判を受ける権利を奪われたものとはいえないから、右裁判が憲法第三二条に違反したとはいえない(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、刑集二巻五号五一一頁、昭和二三年(れ)第五一二号同二四年三月二三日大法廷判決、刑集三巻三号三五二頁参照)。