社宅の使用貸借の終了が使用者の一方的通告による解雇に起因する場合であつても、当事者間に明渡猶予の合意が成立するなど特別の事情のないかぎり、被用者は、使用貸借の終了したことを認識した時から明渡義務を負うべきものと解すべきである。
使用者の一方的通告による解雇に原因する社宅使用貸借の終了と明渡義務の発生時期
民法597条,民法412条
判旨
雇用関係の終了を返還時期と定めた建物の使用貸借において、その返還義務は不確定期限の到来により発生し、借主が雇用関係の終了を認識した時から遅滞の責を負う。借主の住居移転に相当期間を要するという事実上の困難性は、特段の合意がない限り、履行遅滞の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
雇用関係の終了を返還時期とする使用貸借において、不確定期限の到来による履行遅滞の発生時期はいつか。また、住居移転に要する期間の考慮(事実上の履行の困難性)が履行遅滞の成立を妨げるか。
規範
建物の使用貸借において、返還時期を「雇用関係の終了時」と定めた場合、それは返還債務の不確定期限にあたる(民法412条2項)。この場合、債務者は期限が到来したこと(雇用関係の終了)を認識した時から履行遅滞の責任を負う。債務者が事実上直ちに明け渡すことが困難であるという事情は、当事者間に明渡猶予の合意等の特別の事情がない限り、履行遅滞の成立を左右しない。
重要事実
上告人(借主)は、被上告人(会社・貸主)との間で建物の使用貸借契約を締結し、その返還時期は雇用関係が終了した時と定められていた。その後、被上告人が上告人を解雇したことにより雇用関係が終了した。原審は、雇用関係の終了により使用貸借も終了したと認定しつつ、一方的解雇の場合は住居移転に相当な期間の猶予が必要であるとして、直ちには履行遅滞にならない旨を説示していたが、結論としては上告人の明渡義務を認めたため、上告人が上告した。
あてはめ
本件建物の使用貸借は雇用関係の終了時を返還時期としており、これは不確定期限の定めであるといえる。上告人は昭和30年7月2日に雇用関係の終了(期限の到来)を認識したのであるから、民法412条2項により、同日の経過をもって明渡債務の履行遅滞に陥ったと解される。原審が説示した「住居移転のための相当期間の猶予」という点は、単に債務者が事実上履行することが困難であるという事情にすぎず、これを根拠に民法の規定と異なる解釈をすることはできない。
結論
本件使用貸借は雇用関係の終了により終了し、上告人がその終了を認識した時から履行遅滞となる。原判決の結論は正当であり、上告は棄却される。
実務上の射程
不確定期限付債務の履行遅滞(民法412条2項)に関する基本判例である。住居移転の必要性といった社会通念上の困難性は、信義則上の抗弁や黙示の合意として構成されない限り、原則として履行遅滞の成立を妨げないことを示している。答案上は、返還時期の解釈と履行遅滞の起算点を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和40(オ)1133 / 裁判年月日: 昭和41年11月24日 / 結論: 棄却
家賃が一躍二六倍に値上げされた場合であつても、該値上額が第一審判決によつて正当と判断された後、賃借人が値上額の家賃の支払催告に応じなかつたときは、それを理由とする賃貸人の契約解除は有効である。