土地の無権限占有につき少くとも訴状送達以後は過失があると推認された事例
判旨
他人の土地を占有して建物を建築所有する者が、正当な権原がないことを知らずに占有を開始した場合であっても、本案の訴えの提起を受けて訴状が送達された後は、特段の事情がない限り、占有を継続することについて過失があるものと推断される。
問題の所在(論点)
他人の土地を占有する者が、当該土地の所有者から明け渡し訴訟を提起され、その訴状が送達された場合、その後の占有継続について不法行為上の「過失」が認められるか。
規範
不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任において、他人の土地を権原なく占有する者に過失が認められるか否かは、占有の開始時のみならず、その後の事情も考慮される。特に、真実の所有者から建物の収去及び土地の明け渡しを求める訴訟が提起され、その訴状が送達された事実は、占有者が自らの占有権原の存否を再考すべき重要な契機となる。したがって、訴状送達後もなお占有を継続する行為には、特段の事情がない限り、過失の存在が推断される。
重要事実
上告人らは、被上告人が所有する土地の上に建物を建築し、当該土地を占有していた。被上告人は上告人らに対し、所有権に基づき建物の収去と土地の明け渡し、および不法行為に基づく損害賠償(賃料相当額)を求めて提訴した。上告人らは占有権原がある旨を主張したが、一審・二審ともに上告人らの占有を不法占有と認定し、少なくとも訴状が送達された昭和34年8月14日以降は、上告人らに過失があったと判断した。上告人らはこれを不服として上告した。
あてはめ
本件において、上告人らは被上告人所有の土地を占有していたが、当該占有を正当化する権原は認められない。昭和34年8月14日に本案の訴状が送達されたことにより、上告人らは自らの占有が他人の権利を侵害している可能性を十分に認識し得たといえる。このような状況下で、なお占有を継続して建物を建築所有し続けたことは、注意義務を怠ったものと評価され、同日以降の占有について過失があったと推断するのが相当である。判決文からはこの推断を覆す特段の事情は認められない。
事件番号: 昭和40(オ)1452 / 裁判年月日: 昭和41年9月30日 / 結論: 破棄差戻
自己の耕作地を自作農創設特別措置法に基づき政府から農地として売渡をうけうた者は、特別の事情がないかぎり、その売渡処分に瑕疵のないことまで確かめなくとも、所有者と信じるにつき過失があるとはいえない。
結論
土地占有者は、訴状の送達を受けた以降の占有継続について過失があるものと解され、それによって生じた損害(賃料相当額等)を賠償する義務を負う。
実務上の射程
本判決は、民法189条2項(悪意占有への擬制)とは別に、不法行為(709条)の要件としての「過失」の認定手法を示したものである。答案上では、被告が「正当な権原があると信じていた」と主張する場合でも、訴状送達後については原則として過失が肯定されるという論理構成で用いる。善意占有者の果実収取権(189条1項)が否定される場面と連動させて、損害賠償の起算点を特定する際に有用である。
事件番号: 昭和42(オ)597 / 裁判年月日: 昭和43年3月1日 / 結論: 破棄差戻
相続人が、登記簿に基づいて実地に調査すれば、相続により取得した土地の範囲が甲地を含まないことを容易に知ることができたにもかかわらず、この調査をしなかつたために、甲地が相続した土地に含まれ、自己の所有に属すると信じて占有をはじめたときは、特段の事情のないかぎり、相続人は右占有のはじめにおいて無過失ではないと解するのが相当…
事件番号: 昭和39(オ)720 / 裁判年月日: 昭和42年6月20日 / 結論: 棄却
占有の開始は相続によるもので取引によるものではなくその他判示事実関係のもとにおいては土地登記簿を調査しなかつたことをもつて占有のはじめ過失があつたとすることはできない。(本件は、昭三七、五、一八、二小法廷判決集一六巻五号一〇七三頁の再上告事件である。)
事件番号: 昭和45(オ)740 / 裁判年月日: 昭和46年3月9日 / 結論: 棄却
土地の買受人が農業委員会作成の図面または法務局備付の図面を閲覧し、それらに基づいて実地に調査すれば、右土地の範囲が係争地を含まないことを比較的容易に知ることができたにもかかわらず、この調査をしなかつたために、係争地が買い受けた土地に含まれ、自己の所有に属すると信じて占有をはじめたときは、占有のはじめにおいて無過失ではな…
事件番号: 昭和40(オ)766 / 裁判年月日: 昭和42年7月21日 / 結論: 棄却
耕地整理施行中の未登記の残地を買い受けた者が、耕地整理組合について調査することなく、売主の右土地は自己の所有であるとの言を信じてその占有を始めたとしても、右売主が真の所有者の実父であり、同人がこれを管理していた等原審認定の事実(原判決および引用の第一審判決参照)の下においては、右買主がその所有権を取得したと信じたことに…