無権代理人に対する無権代理行為の追認についても、無権代理人に対して特に不利益を与えない場合には、条件を付することが許される。
無権代理人に対する無権代理行為の追認に条件を付することが違法でないとされた事例
民法116条
判旨
無権代理行為の追認という単独行為であっても、相手方に特に不利益を与えない場合には、条件を付すことが許される。具体的には、無権代理人に対する条件付追認が相手方を不当に拘束せず、無権代理人にも不利益でないならば有効である。
問題の所在(論点)
単独行為である無権代理行為の追認に、停止条件を付すことができるか。また、無権代理人に対してなされた条件付追認の有効性が問題となる。
規範
無権代理行為の追認(民法113条1項)は単独行為であるが、相手方に特に不利益を与えない場合には、条件を付すことが許される。特に、無権代理人に対してなされた条件付追認が、相手方に対して直接の効力を及ぼさず、かつ無権代理人に対しても利益を与える内容であれば、その効力は否定されない。
重要事実
不動産処分の権限を付与されていた訴外Dは、期限経過により代理権が消滅した後に本件不動産を上告人に売却した(無権代理行為)。その後、本人である被上告人は、Dに対し「期限までに残代金を支払えば本件売買契約を追認する」という停止条件付の追認を行った。Dは期限までに代金を支払わなかったため、上告人が本人に対し、追認の効力または表見代理の成立を主張して不動産の所有権を争った。
事件番号: 昭和42(オ)1391 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 破棄差戻
無権代理人甲が乙の代理人と称して丙と締結した抵当権設定契約を乙が追認したのち、甲が乙の代理人と称して丁と抵当権設定契約を締結した場合において、丁が甲に乙を代理して右抵当権設定契約をする権限があると信ずべき正当の事由を有するときは、乙は、民法一一〇条および一一二条の類推適用により、甲のした抵当権設定契約につき責に任じなけ…
あてはめ
本件の条件付追認は、相手方である上告人ではなく、無権代理人Dに対してなされたものである。そのため、上告人はこの追認によって当然に不利益な拘束を受けるものではない。また、Dとの関係においても、期限内に支払えば追認するという内容は、Dに一方的な利益(契約の有効化の機会)を与えるものであり、不利益を課すものではない。したがって、相手方の法的地位を不安定にするなどの不利益がないため、本件の停止条件付追認は有効と解される。なお、表見代理については、上告人に代理権消滅の事実を知らなかったことにつき過失が認められるため成立しない。
結論
本件の停止条件付追認は有効であり、条件が成就しなかった以上、追認の効力は発生しない。また、相手方に過失があるため代理権消滅後の表見代理(民法112条)も成立せず、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
単独行為への条件付与の可否に関する一般的基準(相手方の保護)を示す重要判例。答案上は、追認の要件論(113条)において「条件付追認」の有効性が問われた際、本規範を引用して「相手方の不利益」の有無から妥当性を論じる。また、112条の過失認定の判断プロセスも実務上参考となる。
事件番号: 昭和29(オ)909 / 裁判年月日: 昭和31年5月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が登記申請の事実や抵当権設定通知を認識しておらず、かつ妻らが債務の支払を本人に秘匿して行っていた場合には、無権代理行為に対する本人の追認があったとは認められない。 第1 事案の概要:被上告人の所有権移転登記につき権利証が添付され、抵当権設定登記に関する通知が法務局からなされた事実があった。しか…
事件番号: 昭和29(オ)976 / 裁判年月日: 昭和31年6月1日 / 結論: 棄却
本人の死亡を代理権消滅の原因とする民法第一一一条第一項第一号の規定は、これと異なる合意の効力を否定する趣旨ではない。
事件番号: 昭和33(オ)79 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対して特定の法律行為(本件では不動産の売買契約)を行うための権限を授与していた場合には、当該代理人が本人の名において行った行為の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:本件において、上告人の代理人であるDは、被上告人である宮城県との間で、上告人が所有する本件建物を売り渡す旨の売買契…
事件番号: 昭和36(オ)78 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、相手方が代理権があると信じ、かつ信ずるにつき正当の事由があることを具体的に主張する必要があり、単に代理権があると信じていたという事実の主張のみでは足りない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人B1がB2を代理して消費貸借契約や抵当権設定、代物弁済予約を…