本人の死亡を代理権消滅の原因とする民法第一一一条第一項第一号の規定は、これと異なる合意の効力を否定する趣旨ではない。
民法第一一一条第一項第一号と異なる同意の効力
民法111条1項1号
判旨
民法111条1項1号が定める本人の死亡による代理権の消滅は任意規定であり、代理権が死亡後も消滅しない旨の合意は有効である。また、無権代理行為後、相続人が地代の取り立てや修繕費の請求を行うなどの行為は、黙示の追認に該当する。
問題の所在(論点)
1. 本人の死亡により代理権が当然に消滅するか(民法111条1項1号の性質)。 2. 家督相続人が地代の取立等を行った行為が、無権代理行為の黙示の追認に該当するか。
規範
1. 民法111条1項1号は、代理権が本人の死亡によって消滅する旨を規定するが、これと異なる合意の効力を否定する趣旨ではない(任意規定)。したがって、死亡後も代理権が存続する旨の合意は有効である。 2. 無権代理行為の追認(民法113条1項)は、明示の意思表示だけでなく、本人の挙動から客観的にその意思が推認される「黙示の追認」によってもなし得る。
重要事実
訴外Dは応召出征に際し、祖母Eに対し、財産管理その他後事一切を託す委任を行い、当該代理権はDの死亡によっても消滅しないものと合意した。Dの死亡後、Eが代理権の範囲外の行為(本件家屋の売買)を行った。Dの家督相続人となった上告人は、相続後、本件家屋の敷地の地代を再三にわたり取り立て、また家屋の修繕費用を相手方(被上告人)に請求し受領した。
事件番号: 昭和28(オ)1115 / 裁判年月日: 昭和30年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法定代理人である後見人から不動産の処分につき代理権を授与された復代理人が、その後代理人として売買契約を締結した場合、その売買の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:上告人の法定代理人である後見人Eは、訴外Dに対し、本件不動産の処分に関する代理権を授与した。Dは、昭和23年2月20日、後代理人と…
あてはめ
1. DとEの間には「代理権は死亡によって消滅しない」旨の特約が存在し、同規定の任意規定性からこの合意は有効である。よって、D死亡後もEは代理人としての地位を失わない。 2. もっとも、Eの売買行為は管理権限(民法103条)を超えた無権代理行為である。しかし、相続人である上告人は、自らまたはEの名義で継続的に地代を徴収し、さらに修繕費を被上告人に負担させて受領している。これらの行為は、売買契約が有効であることを前提とした振る舞いであり、追認を肯定するに足りる事実であるといえる。
結論
本人の死亡後も代理権を存続させる合意は有効であり、また相続人による地代徴収等の行為は黙示の追認にあたるため、本件売買契約は契約時に遡って有効となる(請求棄却)。
実務上の射程
代理権消滅事由に関する特約の有効性と、黙示の追認の判断基準を示した重要判例である。答案上は、本人の死亡後に行われた行為の有効性を論じる際に、まず111条の任意規定性を論じ、次いで権限外の行為については追認(特に相続人による黙示の追認)の成否を論じる流れで活用する。
事件番号: 昭和31(オ)956 / 裁判年月日: 昭和35年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特定の立木を代物弁済として提供する代理権や登記費用の負担特約を締結する権限があるからといって、当然にその土地自体の所有権を移転させる代理権まで認められるものではない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人の代理人Dとの間で、本件山林の立木を債務の代物弁済として供する旨の合意をし、立木の所有権保存…
事件番号: 昭和39(オ)916 / 裁判年月日: 昭和41年4月26日 / 結論: 棄却
無権代理人に対する無権代理行為の追認についても、無権代理人に対して特に不利益を与えない場合には、条件を付することが許される。
事件番号: 昭和29(オ)231 / 裁判年月日: 昭和30年1月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の「正当な理由」が認められるためには、相手方が無権代理人に代理権があると信じたことにつき、取引上必要とされる注意を欠かないことが必要である。 第1 事案の概要:上告人Aは、被上告人の代理人と称するDとの間で、被上告人所有の土地建物を買い受ける売買契約を締結した。しかし、Dには当該売却の…
事件番号: 昭和42(オ)1391 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 破棄差戻
無権代理人甲が乙の代理人と称して丙と締結した抵当権設定契約を乙が追認したのち、甲が乙の代理人と称して丁と抵当権設定契約を締結した場合において、丁が甲に乙を代理して右抵当権設定契約をする権限があると信ずべき正当の事由を有するときは、乙は、民法一一〇条および一一二条の類推適用により、甲のした抵当権設定契約につき責に任じなけ…