「被上告人が甲を代理人とし一二月初め代物弁済予約完結の意思表示をした」との主張に対し、裁判所が、被上告本人が一二月二七日頃代物弁済予約完結の意思表示をしたと認定しても、弁論主義に反しない。
弁論主義に反さないとされた事例。
民訴法186条,民訴法191条2項
判旨
当事者が特定の法律行為が本人間で行われたと主張した場合であっても、裁判所が証拠に基づき代理人によって行われたと認定することは、弁論主義に反しない。
問題の所在(論点)
当事者が契約や意思表示の主体(本人か代理人か)について特定の主張をしている場合に、裁判所がそれと異なる態様(代理人による行為を本人による行為、あるいはその逆)を認定することは、弁論主義(第1テーゼ)に抵触するか。
規範
弁論主義の下においても、主要事実の法的評価(法律効果の発生要件)に直接関わらない具体的態様については、当事者の主張と裁判所の認定が多少齟齬しても許容される。特に、契約等の法律行為の主体について、当事者が「本人」と主張したのに対し、裁判所が「代理人」と認定したとしても、法律効果の帰属先が同一である限り、弁論主義には反しない。
重要事実
被上告人は上告人に対し、貸金40万円の代物弁済として本件不動産の所有権を取得したと主張し、その意思表示(予約完結権の行使)は被上告人が「母Dを代理人として」昭和31年12月初めに行ったと主張した。これに対し原審は、被上告人が自ら書面をもって昭和31年12月27日付で意思表示をしたという事実を認定した。上告人は、この認定が当事者の主張しない事実を基礎とするものであり、弁論主義に反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和37(オ)1400 / 裁判年月日: 昭和39年11月13日 / 結論: 棄却
ある契約が甲乙間に成立したものと主張して右契約の履行を求める訴が提起された場合に、裁判所が右契約は甲の代理人と乙との間になされたものと認定しても弁論主義に反するものとはいえない。
あてはめ
本件において、被上告人は「代理人Dを通じて」意思表示をしたと主張していたが、原審は「被上告人本人による書面」での意思表示を認定した。しかし、いずれの態様であっても「昭和31年12月中に代物弁済予約完結の意思表示がなされた」という主要事実(法的効果を発生させる事実)において共通している。契約等の履行を求める訴訟において、本人間か代理人間かという行為の態様は、法律効果の帰属先が同一である以上、当事者が主張する事実の範囲を逸脱するものとはいえない。
結論
裁判所が当事者の主張と異なる行為態様(本人によるか代理人によるか)を認定しても、弁論主義に違反しない。
実務上の射程
司法試験では、弁論主義と事実認定の限界に関する論点で活用する。本判例は、代理の主張がなくても代理による契約成立を認定できる(またはその逆)とする一連の判例群の一つであり、主要事実の同一性の範囲内であれば裁判所の自由な心証による認定が認められることを示す規範として引用できる。
事件番号: 昭和32(オ)572 / 裁判年月日: 昭和36年2月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律行為が本人によってなされたか代理人によってなされたかは、法律的効果に差異を生じないため、裁判所が代理の事実を明示せずに判断しても弁論主義に違反しない。 第1 事案の概要:被上告人が上告人に対し、訴外銀行から土地を買い受けることを委任したと主張して、受任者の義務履行としての移転登記を求めた事案。…
事件番号: 昭和30(オ)648 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当の理由」の有無は、事実認定の問題であり、原審が証拠に基づいてこれを否定した判断は違法ではない。 第1 事案の概要:上告人の代理人Dが、訴外Eに被上告人を代理して本件土地を売却する権限があるものと信じて取引を行った。上告人は、Dがそのように信じたことについて「正当の理由…
事件番号: 昭和40(オ)49 / 裁判年月日: 昭和41年10月18日 / 結論: 棄却
代理人が自己の名を示さず本人の名においてなした行為も代理行為として有効である。
事件番号: 昭和32(オ)473 / 裁判年月日: 昭和35年4月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当な理由」の存否については、代理人と称する者の署名形式のみならず、周囲の諸客観的事実を総合的に考慮して判断されるべきである。 第1 事案の概要:訴外Dは、本人である上告人を代理して、被上告人との間で本件売買契約を締結した。しかし、当該契約に係る売渡証書(甲一号証)におい…