ある契約が甲乙間に成立したものと主張して右契約の履行を求める訴が提起された場合に、裁判所が右契約は甲の代理人と乙との間になされたものと認定しても弁論主義に反するものとはいえない。
契約が代理人によつてなされたとの主張の要否。
民訴法186条
判旨
当事者間に契約が成立した旨の主張に対し、裁判所が代理人を通じて契約が締結されたと認定することは、弁論主義に反しない。
問題の所在(論点)
当事者本人の間に契約が成立したとの主張がある場合に、裁判所が「代理人と相手方との間で契約が締結された」と認定することが、弁論主義(第一テーゼ)に抵触するか。
規範
契約の成立という主要事実の主張には、本人による直接の締結だけでなく、代理人を通じた締結も包含される。したがって、当事者間に契約が成立したとの主張に対し、裁判所が代理人による締結を認定しても、当事者が主張しない事実を基礎としたことにはならず、弁論主義に違反しない。
重要事実
上告人と被上告人の間で軍手取引契約の履行を求める訴訟が提起された。原審は、当該契約は被上告人とD(E協会という通称を使用していた個人)との間で締結されたものであると認定した。これに対し上告人は、原告が主張していない「代理人による契約」を裁判所が認定したことは弁論主義に反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和39(オ)900 / 裁判年月日: 昭和40年2月11日 / 結論: 棄却
「被上告人が甲を代理人とし一二月初め代物弁済予約完結の意思表示をした」との主張に対し、裁判所が、被上告本人が一二月二七日頃代物弁済予約完結の意思表示をしたと認定しても、弁論主義に反しない。
あてはめ
本件において、被上告人とDとの間で契約が締結された事実は、軍手取引契約の効力が当事者間に帰属することを根拠づけるものである。契約の成立を主張する訴えにおいて、その具体的な態様が直接締結か代理人による締結かは、契約成立という主要事実の具体的態様の相違にすぎない。したがって、被上告人とDとの間に契約が成立したと認定することは、当事者の主張する「契約成立」の範囲内に含まれると評価される。
結論
裁判所が、甲乙間に契約が成立したとの主張に対し、甲の代理人と乙との間になされたものと認定しても弁論主義に反しない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
民事訴訟法における弁論主義の適用範囲、特に「主張された主要事実」の解釈に関する射程を持つ。代理権の授与事実そのものが主要事実か、あるいは契約成立という主要事実の具体的態様にすぎないかという議論において、後者の立場を補強する判例として、答案上では弁論主義違反の有無を検討する際に引用できる。
事件番号: 昭和41(オ)1097 / 裁判年月日: 昭和42年6月6日 / 結論: 棄却
不動産の所有権が順次甲、乙、丙と譲渡された場合に、甲が乙に対し所有権移転登記をする意思で、登記申請書類を交付していたときは、甲の右登記申請意思は、丙が右書類を利用して甲から丙に直接所有権移転登記をすることを無効たらしめるものではない。
事件番号: 昭和33(オ)79 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対して特定の法律行為(本件では不動産の売買契約)を行うための権限を授与していた場合には、当該代理人が本人の名において行った行為の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:本件において、上告人の代理人であるDは、被上告人である宮城県との間で、上告人が所有する本件建物を売り渡す旨の売買契…
事件番号: 昭和37(オ)1410 / 裁判年月日: 昭和39年2月13日 / 結論: 棄却
所有権転移仮登記の権利者が、仮登記後所有権取得登記を経た第三者に対し、右登記の抹消登記手続を請求した場合、裁判所が、仮登記に基づく本登記手続につき承諾を命ずる判決をしても、民訴法第一八六条に違反しない。
事件番号: 昭和39(オ)1107 / 裁判年月日: 昭和42年2月23日 / 結論: 棄却
昭和三九年(オ)第七七号同四一年一一月一八日第二小法廷判決(民集二〇巻九号一八二七頁掲載)と同旨。