鉱業所鉱員が他から金銭を借り受けその支払をしないまま同鉱業所を退職し遠隔地に転居するに際し、同鉱業所労務係員が右不払の事実を知りながら、右鉱員の依頼によりその家財道具を人目につかぬように出発後荷造りして送つてやつたため、前記金銭債権の取立てが不能になつたとしても、右退職転居が同鉱員の自発的意思に出たものであり、右労務係員の積極的な働きかけによるものでない等原審認定の事情(原判決理由参照)のもとでは、前記金銭債権を第三者たる右労務係員が侵害したものとはいえない。
第三者の債権侵害にあたらないとされた事例。
民法709条
判旨
債務者が債権者から逃れる目的で夜逃げ同然に転居する際、その事情を知る雇用主の従業員が債務者の依頼に基づき家財道具の発送作業を補助したとしても、その転居が債務者の自発的意思によるものである等の事情の下では、当該従業員に債権侵害の違法性は認められない。
問題の所在(論点)
債務者の夜逃げ的転居を補助した第三者の行為が、債権者に対する「違法な」債権侵害として不法行為を構成するか。特に、債務者自身の自発的な意思に基づく行動に協力した場合の違法性が問題となる。
規範
第三者による債権侵害が不法行為(民法709条)を構成するためには、単に債務履行の不能を招くだけでは足りず、その行為が社会通念上、債権者の権利を違法に侵害したものと評価される程度の違法性を具備していることを要する。具体的には、行為者の加害意図の有無、侵害の態様、債務者の意思の介入度合い等を総合的に考慮して判断すべきである。
重要事実
鉱業所に勤務していた債務者Eは、債権者(上告人)らに対して多額の債務を負っていた。Eが退職して他県へ転居する際、雇用主である被上告会社の労務係員Bに対し、債権者らに知られないよう家財道具を後から荷造りして発送してほしいと依頼した。BはEが債務を負っていることを知りながらこれを承諾し、実際に荷造り作業を行った。債権者は、Bの行為が債権侵害にあたるとし、B本人及び被上告会社(使用者責任)に対して損害賠償を求めた。
あてはめ
本件において、債務者Eの退職および転居はE自身の自発的な希望によるものであり、Bが積極的にEを動かして逃亡させたものではない。Bが行った荷造り等の補助行為は、あくまでEの依頼に基づいた受動的なものに留まっている。このような状況下では、BがEの債務不履行の状態を知っていたとしても、その行為をもって社会通念上の違法性を有する債権侵害があったと断定することはできない。
結論
Bの行為に違法性は認められず、不法行為は成立しない。したがって、Bの行為を前提とする被上告会社の使用者責任(民法715条)も認められない。
実務上の射程
第三者による債権侵害の論点で、債務者の逃亡を助けた者の責任を否定する際の重要判例である。答案上は、物権とは異なる債権の相対性を踏まえ、「違法性」の有無を慎重に判断する枠組み(加害の態様や債務者の自発性等)を明示し、本判例のような受動的な補助に過ぎない場合は違法性を否定する方向で活用する。
事件番号: 昭和31(オ)711 / 裁判年月日: 昭和33年2月25日 / 結論: 棄却
債務者乙の債権者甲に対する債務を、丙が肩替りして履行を引き受けた場合に、第三者のためにする契約がなされたものとするためには、乙丙間で、特に甲をして直接丙に対し履行の請求権を取得させることを約したことを要し、債務引受がなされたものとするためには、甲丙間にその旨の契約が成立することを要すると解すべきである。