地代家賃統制令の適用のある賃貸借契約において、統制額の増額に応じて約定賃料額が当然に増額されるものではない。
統制額の増額と約定賃料額
民法601条
判旨
地代家賃統制令下において、統制額が改定された場合であっても、約定賃料は当然には自動改定されない。賃料増額の効果が発生するためには、特段の事情がない限り、賃貸人が賃借人に対して改定額による旨を告げて増額請求を行う必要がある。
問題の所在(論点)
地代家賃統制令に基づき賃料の統制額が引き上げられた場合、賃貸人と賃借人との間の約定賃料は、賃貸人による増額請求の意思表示を待たずに自動的に統制額まで増額されるか。また、賃借人が賃貸人の所有権を否認していることは、この判断に影響を及ぼすか。
規範
地代家賃統制令は地代家賃の最高限度を規制するものである。したがって、約定賃料額は何らの意思表示もなくして統制額の増額に応じその額まで自動的に増額されるものではなく、特別の事情のないかぎり、賃貸人においてその改定の都度改定額によることを賃借人に告げて増額請求をして始めてそれ以後賃料額改定の効果が発生する。
重要事実
賃貸人(上告人)が、地代家賃統制令に基づく統制額の引き上げに伴い、約定賃料も当然に引き上げられたと主張した事案。賃借人(被上告人)は、本件家屋が上告人の所有であることを否認するなど、賃貸借関係の成否について争いがあった。賃貸人は増額請求の意思表示の有無に関わらず、改定後の賃料債務の不履行等を理由に明渡し等を求めて上告した。
あてはめ
地代家賃統制令の趣旨は最高額を制限する点にあり、私人間での約定を自動的に上書きする効果まではない。本件において、統制額が増額されたとしても、それは約定賃料を増額し得る「上限」が緩和されたに過ぎない。したがって、契約当事者間の合意内容を変更するには、賃貸人から賃借人に対し、改定後の額による旨の具体的な意思表示(増額請求)が必要である。賃借人が所有権を否認していたとしても、契約上の意思表示の必要性を否定する「特別の事情」には当たらないと解される。
結論
統制額の改定により賃料が自動的に増額されることはなく、賃貸人の増額請求があって初めて改定の効果が生じる。本件明渡請求は認められない。
実務上の射程
行政上の価格規制がある場合であっても、私法上の賃料債権の額を確定させるには、原則として形成権の行使(増額請求)を要するという法理を示す。現在では地代家賃統制令の適用場面は限定的だが、借地借家法11条、32条の賃料増減額請求権の行使が必要であるとする基本的な考え方と軌を一にする。
事件番号: 昭和35(オ)1060 / 裁判年月日: 昭和37年4月10日 / 結論: 棄却
統制額の修正に伴い当然これを賃料額とする旨の特約または増減請求の意思表示があれば格別、統制額の修正の告示があつたからといつて、右統制額が当該賃貸借契約の賃料に何ら影響しない。