一 借家法第七条に基づく賃料増減の請求は形成的効力を有し、請求者の一方的意思表示が相手方に到達した時に同条所定の理由が存するときは、賃料は以後相当額に増減せられたものと解すべきである。 二 家賃統制額が月額一〇一六円である場合、月額一五〇〇円への家賃増額請求につき、右統制額を限度として増額の効果を認めることは、地代家賃統制令第三条の趣旨に違反するものではない。
一 借家法第七条に基づく賃料増減請求の効力。 二 統制額を越える家賃増額請求と地代家賃統制令第三条。
借家法7条,地代家賃統制令3条
判旨
賃料増減請求権の行使は、請求の意思表示が相手方に到達した時に客観的に相当な額へ賃料を変動させる形成的効力を有し、相手方の承諾を要しない。また、統制額を超える増額請求であっても、統制額の範囲内であればその限度で増額の効果が認められる。
問題の所在(論点)
1. 賃料増減請求権の行使に相手方の承諾は必要か(請求権の法的性質)。 2. 法令上の統制額を超える増額請求がなされた場合、統制額の限度で増額の効果を認めることができるか。
規範
借地借家法32条(旧借家法7条)に基づく賃料増減請求権は形成的効力を有する。したがって、法所定の要件を満たす限り、請求者の一方的意思表示が相手方に到達した時点で、賃料は将来に向かって客観的に相当な額へと当然に増減する。また、増額請求額が法令上の制限(統制額等)を超える場合であっても、当該制限の範囲内であれば、その限度で相当額への増額の効果が生じる。
重要事実
賃貸人(上告人)が、賃借人に対し、旧借家法7条に基づき家賃を月額1500円に増額する旨の請求を行った。当時、地代家賃統制令3条に基づく家賃統制額は月額1016円であった。賃借人側は、賃料増額には相手方の承諾が必要であると主張し、また統制額を超える請求の効力を争った。
あてはめ
1. 旧借家法7条(現32条)の規定は、経済事情の変動等により賃料が不相当となった場合に当事者の衡平を図る趣旨である。この趣旨に鑑みれば、請求の意思表示が到達した時点で客観的な相当額に賃料を確定させる形成的効力を認め、一方的な意思表示により効果を発生させるべきである。したがって、相手方の承諾は不要である。 2. 地代家賃統制令の趣旨は、統制額を超える不当な賃料を抑制することにある。本件では1500円への増額が請求されているが、統制額である1016円を相当額と認め、その範囲内において増額の効果を認めることは同令の禁止する制限を超えないため、むしろその趣旨に合致する。
結論
1. 賃料増減請求には相手方の承諾を要さず、意思表示の到達により形成的効力が生じる。 2. 統制額を超える増額請求であっても、統制額の範囲内であればその限度で増額の効果が認められる。
実務上の射程
賃料増減請求権が形成権であることを明言したリーディングケースであり、実務上、増減額をめぐる協議が調わない場合でも、請求時点に遡って相当賃料による債権債務が発生することを確認する際の根拠となる。また、請求額が不相当に高額であっても、裁判所が認定する客観的な相当額の限度で一部認容されるという「一部増額」の法理の基礎となっている。
事件番号: 昭和35(オ)36 / 裁判年月日: 昭和37年1月16日 / 結論: 棄却
地代家賃統制令による統制が解除されたとしても、当事者間で新しい約定があるとか、賃貸人の増額請求の意思表示がなされるとか、特別の事情のない限り当然に統制解除当時の賃料額を超える請求をできるものではない。
事件番号: 昭和36(オ)72 / 裁判年月日: 昭和36年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃料増額請求における適正賃料の算定において、借地権自体の価格を直接の要素として算入することはできないが、建物の立地条件等に基づく場所的利益を考慮することは妨げられない。また、増額請求の当否は諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきである。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)が被上告人(賃借人)に…