一 賃貸借の目的物たる家屋のうち一棟が譲渡され、借家法第一条第一項により賃借人と譲受人間に賃貸借がその効力を生じたに拘らず、当事者の合意等により賃料が確定しない場合には、当事者の請求により裁判所がこれを定め得るものと解するが相当である。 二 右請求のあつた場合、裁判所は、原則として、賃貸借が効力を生じた当時における諸般の事情を標準として賃料を決定すべきであるが、賃貸借の効力発生後口頭弁論終結までの間に事情の変更があれば、右事情変更後の賃料は、当事者から賃料増減の請求があると否とに拘らず変更した事情を参酌して別異に定むべきである。
一 裁判所に賃料の確定を請求し得べき場合。 二 右請求に基く賃料確定の方法。
民法388条,借家法1条1項,借家法7条
判旨
賃貸建物の譲渡により未確定の賃料を裁判所が決める際、増減請求の手続きなしに、賃貸借成立時からの事情変更を考慮して遡及的に賃料を定められる。また、旅館営業の一部をなす建物の明渡しについても、他の代替施設等の利用可能性を考慮して正当事由が認められる。
問題の所在(論点)
1. 賃貸借承継後に賃料合意がない場合、裁判所が賃料増減請求の手続きを経ずに遡及的に賃料を決定できるか。2. 営業用建物の明渡請求において、代替施設の存在が「正当事由」の判断にどう影響するか。
規範
賃貸目的物の譲渡により法律上賃貸借関係が承継されたが、当事者間に賃料の合意がない場合、裁判所は当事者の請求により適正な賃料を定め得る。その際、効力発生から口頭弁論終結時までの間に事情変更(賃料統制額の変更等)があるときは、賃料増減請求の手続きを要さず、効力発生時に遡って各時期の事情を参酌し、異別に賃料を確定できる。
重要事実
上告人(賃借人)は、本件家屋二階部分等を使用して旅館・飲食店を経営していた。本件家屋の一部が被上告人(譲受人)に譲渡され、借家法一条に基づき賃貸借が承継されたが、両者間に賃料の合意はなかった。被上告人は不法占有を理由とする損害賠償を主位的請求とし、予備的に賃料確定及び支払を求めた。上告人は、南側二室を明け渡せば旅館業法の客室面積不足により廃業を余儀なくされると主張し、また、賃料増減請求の手続きを欠く遡及的な増額を争った。
あてはめ
1. 賃料決定について、被上告人が当初から賃料未確定を理由に裁判所による確定を求めていたことが記録上明らかである。この場合、賃貸借承継時から現在までの賃料を各時期の諸般の事情(物価指数や統制額の変更等)に即して定めるべきであり、別途の増額請求は不要である。2. 正当事由について、上告人の妹が近隣に所有する建物も一体として旅館業に使用可能であるという事実から、二室を明け渡しても旅館営業を廃止しなければならない状況にはない。したがって、賃借人側の困窮度は相対的に低く、明渡しを求める正当な理由が認められる。
結論
1. 賃料増額請求の手続きがなくても、賃貸借承継時に遡って事情に応じた適正賃料を裁判所が確定することは適法である。2. 代替建物の利用が可能で廃業の恐れがない以上、本件明渡請求には正当事由が認められる。
実務上の射程
賃貸借承継後に賃料が未確定である場合の処理として、裁判所による形成的な賃料決定権限を認めた点に実務上の意義がある。借地借家法32条の増減請求権の枠組みとは別に、初期設定としての賃料確定において事情変更を考慮できることを示している。
事件番号: 昭和35(オ)36 / 裁判年月日: 昭和37年1月16日 / 結論: 棄却
地代家賃統制令による統制が解除されたとしても、当事者間で新しい約定があるとか、賃貸人の増額請求の意思表示がなされるとか、特別の事情のない限り当然に統制解除当時の賃料額を超える請求をできるものではない。