一 賃貸家屋の明渡を求める調停の申立は、特別の事情がないかぎり、その申立の理由いかんを問わず、当該家屋を目的とする賃貸借契約についての解約の申入の意思表示を伴うものと解すべきである。 二 家屋の賃貸人が歯科医師で、明渡を求めている家屋以外に家屋を所有せず、現在使用している住宅及び診療所の明渡を求められている等(原判決理由参照)の事情がある場合には、賃借人が、約二〇年前から賃貸人所有の右家屋を賃借し、メツセンジヤー業を営みながら、一〇名を越える親族とともに、極めて貧しい生活を続けている等(原判決理由参照)の事情があるときでも、賃貸人のした解約の申入については、借家法第一条の二にいう「正当ノ事由」がある。
一 家屋の明渡を求める調停の申立は当該家屋を目的とする賃貸借契約についての解約の申入の意思表示を含むか。 二 借家法第一条の二の「正当ノ事由」があるとされた事例。
借家法3条,借家法1条の2
判旨
賃貸借契約における家屋明渡しの調停申立ては、特段の事情がない限り解約申入れの意思表示を伴うものと解され、借家法上の「正当事由」の判断には当事者双方の事情のみならず、社会情勢等の諸般の事情も考慮し得る。
問題の所在(論点)
家屋明渡しの調停申立てに賃貸借の解約申入れの意思表示が含まれるか、および「正当の事由」の判断において社会的情勢等を考慮することができるか。
規範
1. 賃貸借契約の存続と相容れない態様での家屋明渡しの調停申立ては、特段の事情がない限り、賃借人に対する解約申入れ(及び転借人に対する終了通知)の意思表示を伴うものと解するのが相当である。2. 借地借家法上の「正当の事由」の存否の判断にあたっては、単に当事者双方の諸事情だけでなく、公益上、社会上各般の事情(住宅事情の推移等)をしんしゃくすることができる。
重要事実
賃貸人(被上告人)が、賃借人(上告人A1)および転借人(上告人A2)に対し、家屋明渡しの調停を申し立て、相手方がこれを了知した。賃貸人はその後に明渡しを求める訴訟を提起した。調停申立時から口頭弁論終結時までに6ヶ月以上が経過しており、正当事由の有無が争点となった。
あてはめ
本件における明渡しの調停申立ては、賃貸借契約の存続と相容れないものであるから、特段の事情がない限り解約申入れの意思表示が含まれる。また、正当事由の判断において、原審が当事者双方の具体的個別的事情に加えて、解約申入以後の日時の経過や住宅事情の寛和といった社会的情勢を考慮して正当性を認めたことは適法である。
結論
本件調停申立てにより解約申入れがなされたと認められ、かつ社会的情勢を含めた諸般の事情の考慮により正当事由が認められるため、賃貸人の明渡し請求を認容した原判決は妥当である。
実務上の射程
解約申入れの意思表示が明確になされていない場合でも、明渡しを求める調停申立ての事実から意思表示を擬制できる点に実務上の意義がある。また、正当事由の判断要素として社会情勢等の公益的要素を考慮できることを明示した。答案上は、解約の意思表示の有無が争われる場面や、借地借家法28条の正当事由の判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)1042 / 裁判年月日: 昭和35年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人による解約申入れに正当事由が認められるか否かは、諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきであり、本件では原審の認定した事実関係に基づき正当事由の存在が肯定された。 第1 事案の概要:被上告人(賃貸人)が、上告人(賃借人)らに対して建物の賃貸借契約の解約申入れを行った。上告人側は、解約申入れ…