判旨
賃貸借契約の解約申入れにおける正当事由の存否については、原判決が掲げた一部の事情が不適切であったとしても、その他の諸事情を総合考慮して正当事由が認められるのであれば、判決の結果に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
賃貸借の解約申入れにつき、原判決が正当事由の判断要素として掲げた一部の事情に不適切な点がある場合であっても、他の事情によって正当事由の存在を維持できるか。
規範
借地借家法(旧借家法)の下での解約申入れの正当事由は、賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、立退料の提供等を総合考慮して判断される。一部の考慮要素に事実誤認や不適切な点があったとしても、残余の認定事実によって正当事由の具備を基礎付けられる場合は、結論として正当事由が認められる。
重要事実
賃貸人(被上告人)が賃借人(上告人)に対して本件賃貸借契約の解約申入れを行った。原審(原判決)は、賃貸人側の事情を含む諸般の事情に基づき、本件解約申入れに正当事由があるものと判断した。これに対し上告人は、原審が依拠した特定の事実認定(原裁判所に顕著な事実等)に誤りがあり、正当事由の判断に法令違反があると主張して上告した。
あてはめ
原判決が正当事由の判断に際して挙げた一部の事情(上告人が指摘する所論摘示の事情)を仮に除外したとしても、原判決が認定したその他の諸事情(賃貸人側の必要性等、詳細は判決文からは不明)の下では、本件解約について正当の事由があるものと認められる。したがって、一部の判断過程に疑義があっても、結論において正当事由を認めた判断は、判決に影響を及ぼす明らかな法令違反があるとはいえない。
結論
本件解約申入れには正当事由が認められるため、上告を棄却する。
実務上の射程
司法試験等の答案作成においては、正当事由の有無が争点となる際、一部のネガティブな事実や考慮不足があっても、他の事情を総合的に評価して(「事情を総合考慮すれば…」)結論を導く際の判例上の許容範囲を示すものとして活用できる。ただし、本判旨は個別事案の事実認定の評価に関するものであるため、実務上の具体的な考慮要素の重み付けについては、より詳細な後掲の累積的判例を参照すべきである。
事件番号: 昭和31(オ)342 / 裁判年月日: 昭和32年5月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の賃貸借において、解約申入れに正当事由があると認められるか否かは、認定された事実関係を総合的に考慮して判断される。本件では、原審が認定した諸般の事情に基づき、解約申入れに正当事由があると判断したことは相当である。 第1 事案の概要:本判決文からは具体的な事案の詳細は不明であるが、被上告人(賃貸…