借家法第一条による賃貸借の承継の場合、その承継につき、賃貸人から賃借人に承継の通知をすることは必要でない。
借家法第一条による賃貸借の承継とその通知の要否。
借家法1条
判旨
賃料増額請求権は形成権であり、行使により賃料は客観的に相当な額へ当然に増額され、その履行期は契約所定の時期に到来する。また、建物所有権の移転に伴う賃貸人たる地位の承継において、賃借人への通知は不要である。
問題の所在(論点)
1. 賃料増額請求権の行使による賃料増額の効果および増額分の履行期はいつか。 2. 建物所有権の移転に伴い賃貸人たる地位が承継される際、賃借人への通知が必要か。
規範
1. 借家法上の賃料増額請求権は形成権であり、その行使によって賃料は将来に向かって当然に相当額へと増額される。争いがある場合の裁判は客観的に定まった増額範囲を確定するに過ぎず、増額後の賃料の履行期は、従前の賃貸借契約で定められた支払時期に到来する。 2. 建物の所有権取得に伴う賃貸人たる地位の承継は、法律上当然に生じるものであり、賃借人に対する通知を要しない。
重要事実
建物所有者(賃貸人)から建物を譲り受けた被上告人は、昭和25年7月、賃借人である上告人に対し、公定賃料の支払を請求した。この請求は借家法上の賃料増額請求と解されるものであった。本件契約では賃料は毎月末日払の約定であったが、上告人は同年8月以降の増額後の賃料を支払わなかった。そのため、被上告人は賃料不払を理由に賃貸借契約の解除を主張した。これに対し上告人は、増額請求の効果や履行期、および賃貸人承継の通知の有無を争った。
あてはめ
1. 賃料増額請求権の性質は形成権であるため、被上告人が昭和25年7月に行った増額請求により、賃料は客観的に相当な額(統制賃料の範囲内)に当然に増額された。本件契約では賃料は毎月末日払とされていたため、増額後の賃料についても、同年8月以降の各月末日に履行期が到来するといえる。 2. 被上告人は本件建物の所有権を取得したことにより、借家法1条(当時)に基づき当然に賃貸人の地位を承継する。この承継に際して通知は不要であるため、被上告人は正当な賃貸人として増額請求および解除を行うことができる。
結論
1. 賃料増額請求により、特段の裁判を待たずして契約所定の支払時期に増額後の賃料支払義務が生じる。2. 賃貸人の地位の承継に通知は不要であり、未払を理由とする契約解除は有効である。
実務上の射程
賃料増額請求の形成権的性質を確認した重要判例。増額額が確定する前であっても、相当額の支払を怠れば履行遅滞となり得る点に注意を要する(現在は借地借家法32条2項・3項により、確定までの供託等による不利益回避措置が規定されている)。また、賃貸人承継の対抗要件(所有権移転登記)とは別に、通知そのものは承継の要件ではないことを示している。
事件番号: 昭和32(オ)435 / 裁判年月日: 昭和36年9月29日 / 結論: 棄却
一 賃貸借の目的物たる家屋のうち一棟が譲渡され、借家法第一条第一項により賃借人と譲受人間に賃貸借がその効力を生じたに拘らず、当事者の合意等により賃料が確定しない場合には、当事者の請求により裁判所がこれを定め得るものと解するが相当である。 二 右請求のあつた場合、裁判所は、原則として、賃貸借が効力を生じた当時における諸般…