甲乙間の売買契約の成立を推認させる書証(乙を宛名人とする甲名義の売買代金領収証)を、乙が甲の代理人として丙と売買契約を締結した旨の事実認定の資料に供した判決は、該書証の意味を別異に解すべき特段の事情がないかぎり、採証法則に違背する。
書証の通常有する意味内容に反してなした事実の認定が採証法則に違背するとされた事例。
民訴法185条
判旨
証拠となる書面の記載内容から通常推認される事実と、判決が認定した事実が論理的に矛盾する場合、特段の事情がない限り、その証拠判断には証拠法則に反する違法がある。
問題の所在(論点)
証拠とされた書面の記載内容(昭和30年・31年の内金受領)が、判決の認定事実(昭和34年の契約成立)と論理的に矛盾する場合、当該事実認定は適法か。
規範
裁判所が事実認定を行うにあたっては、書証の通常の記載内容から導かれる自然な意味内容を尊重すべきである。提出された書証に認定事実と相容れない記載がある場合、その記載を排斥するに足りる特段の事情や合理的な理由を示さずに、当該書証を認定の根拠とすることは、証拠の解釈を誤った違法(証拠法則違反)または理由不備となる。
重要事実
上告人はDに対し土地の売却処分を委任し、白紙委任状等を交付した。Dは昭和34年、上告人の代理人として被上告人と土地売買契約を締結したとされる。しかし、被上告人が提出した領収証(甲11、甲14の2)には、昭和30年および31年の日付で、Dを宛先として「土地売却代金の内金」を受領した旨の記載があった。上告人は、昭和30年時点でD自身に売却したが後に解除したと主張した。原審は、当該領収証を根拠に挙げつつ、昭和34年に被上告人との間で契約が成立したと認定し、上告人の主張を退けた。
事件番号: 昭和33(オ)26 / 裁判年月日: 昭和34年7月2日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】売買の予約の成立を認めるためには、その前提となる事実について証拠に基づき合理的に認定する必要があり、供述内容が予約ではなく本契約の成立を指している場合には、予約の成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)から土地200坪を単価140円で購入したと主張し、売買一…
あてはめ
本件領収証には、昭和30年および31年に土地売却の内金が支払われた旨が明記されている。この記載を通常通り解釈すれば、既にその時点で何らかの売買契約が成立していたと認めるのが自然である。ところが、原審が認定した被上告人との契約成立時期は昭和34年であり、記載内容と3年以上の乖離がある。また、領収証の宛名がDであることは、D自身が買主であったという上告人の主張を支える有力な反証となり得る。原審が、これらの記載内容と相容れない事実を認定しながら、当該領収証を認定の資料として挙げたことは、書証の有する通常の意味内容を無視したものであり、認定を支える理由として不十分である。
結論
原判決には事実認定における証拠法則違反および理由不備の違法があり、破棄を免れない。
実務上の射程
民事訴訟における事実認定において、書証の記載内容の「自然な解釈」を重視する立場を強調したもの。答案上は、書証の文言に反する認定がなされている場合に、採証法則違反や理由不備を論じる際の指針となる。
事件番号: 昭和30(オ)648 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当の理由」の有無は、事実認定の問題であり、原審が証拠に基づいてこれを否定した判断は違法ではない。 第1 事案の概要:上告人の代理人Dが、訴外Eに被上告人を代理して本件土地を売却する権限があるものと信じて取引を行った。上告人は、Dがそのように信じたことについて「正当の理由…
事件番号: 昭和34(オ)676 / 裁判年月日: 昭和37年3月20日 / 結論: 棄却
不動産の売買契約の代理権の存否が争点となつている事件において、売渡証書の売主(被告)名下の印影が同一の印と一致するかどうかにつき、当事者間に争いがあるのにかかわらず、これを争いなしと判断し、右判断を代理権授与の認定の資料に供した違法があつても、数個のかつ多角的な内容を有する間接事実を採用してこれを代理権授与の認定の資料…
事件番号: 昭和30(オ)573 / 裁判年月日: 昭和31年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証言の一部に事実に符合しない部分があっても、それだけで直ちに他の部分が信用できなくなるものではなく、証拠の採否は事実審の専権に属する。 第1 事案の概要:上告人は、原審における事実認定に関し、経験則に反する認定があること、および採証の法則に違反して事実認定が行われたことを主張した。具体的には、証言…