右によつては審理不尽の違法をきたさない。
成立の真正が立証されない書証を判決に摘示しないことは審理不尽の違法をきたすか。
民訴法258条
判旨
成立の真正が立証されていない書証について、原審が判断を示さなかったとしても、審理不尽の違法があるとはいえない。また、原審が行った代理人による土地買受けの事実認定は、証拠関係に照らして正当として維持される。
問題の所在(論点)
成立の真正が立証されていない書証について原判決が判示しなかったことは、審理不尽の違法にあたるか。また、代理人を介した土地買受けの事実認定は正当か。
規範
書証の証拠能力および証拠価値の判断について、当該文書の成立の真正が証明されていない場合には、裁判所がこれに基づいた判断を示さなくとも審理不尽の違法は構成しない。また、代理人による契約締結の事由を含む事実認定は、原審の専権に属する証拠の取捨判断に基づくものであり、その判断過程に合理性が認められる限り、上告審においても維持される。
重要事実
上告人の代理人Dから、被上告人の父Eが、大正10年3月31日に本件土地(420番の1を含む)を買い受けたという事実の有無が争点となった。上告側は乙第2号証という書証を提出したが、その成立の真正については立証がなされていなかった。原審は、挙示された証拠関係に基づき、上記買受けの事実を認定した。これに対し、上告人が原審の判断には審理不尽や事実誤認の違法があるとして上告した事案である。
事件番号: 昭和37(オ)671 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
原審において主張なく認定のない事実をもつて原判決の確認の利益に関する判断を非難することは、上告理由として採用できない。
あてはめ
本件では、上告人が提出した乙第2号証について、その成立の真正を裏付ける立証が全くなされていない。この場合、裁判所が当該書証を証拠として採用せず、特段の判断を示さなかったとしても、必要な審理を尽くしていないという違法(審理不尽)は認められない。また、DからEへの土地売買という事実認定についても、原審が採用した証拠関係に照らせば、代理権の行使や合意の成立を肯定することは十分に可能であり、上告人の主張は単なる事実認定の非難にすぎず、排斥されるべきである。
結論
本件上告は棄却される。成立の真正が不明な証拠を無視したことに違法はなく、原審の事実認定は正当である。
実務上の射程
民事訴訟における書証の取扱いにおいて、成立の真正の立証が証拠採用の前提となることを再確認するものである。答案上は、証拠調べのプロセスにおいて不採用となった資料を判決が引用しなかったとしても、直ちに審理不尽の違法を問うことはできないという文脈で活用できる。また、代理関係を介した事実認定が原審の専権事項であることを示す一例となる。
事件番号: 昭和32(オ)235 / 裁判年月日: 昭和35年3月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地の引渡しを受けた根拠が交換契約にあるとの主張について、立証が不十分であれば、当該契約に基づく占有の権原は認められない。事実認定に関する判断が判決の結論に影響しない事項である場合、上告理由は採用されない。 第1 事案の概要:上告人は、被上告町との間で、町所有の土地(本件係争土地)と自己所有の土地…
事件番号: 昭和33(オ)633 / 裁判年月日: 昭和35年11月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠の排斥理由を判決文に逐一記載する必要はなく、裁判所の専権に属する証拠の取捨判断及び事実認定に不合理がなければ適法である。 第1 事案の概要:本件土地の売買をめぐり、当事者間の契約が知事の許可を条件とする単純な売買契約であるか、それとも上告人が主張するような譲渡担保であるかが争われた。原審は、提…
事件番号: 昭和33(オ)792 / 裁判年月日: 昭和36年1月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、証人の証言の一部を採用し、他の部分を措信しないという自由な評価を行うことが認められる。また、当事者の主張と供述が一貫している場合には、それに基づき事実を認定することが可能である。 第1 事案の概要:被上告人は、係争地を含む山林を買い受けたと主張していた。第一審および第二審において、証人D…
事件番号: 昭和39(オ)561 / 裁判年月日: 昭和40年2月5日 / 結論: 破棄差戻
甲乙間の売買契約の成立を推認させる書証(乙を宛名人とする甲名義の売買代金領収証)を、乙が甲の代理人として丙と売買契約を締結した旨の事実認定の資料に供した判決は、該書証の意味を別異に解すべき特段の事情がないかぎり、採証法則に違背する。