判旨
証言の一部に事実に符合しない部分があっても、それだけで直ちに他の部分が信用できなくなるものではなく、証拠の採否は事実審の専権に属する。
問題の所在(論点)
証拠説明や証言の一部に事実と異なる点が含まれる場合、裁判所はその証言の全体を排除しなければならないのか、あるいは一部の信用性を認めて事実認定の基礎とすることが許されるのか。事実審の自由心証の限界が問われた。
規範
証拠の採否および事実の認定は、裁判官の自由な心証に基づく自由裁量(自由心証主義)に属する。証言の一部が虚偽や事実誤認を含んでいたとしても、そのことのみをもって当該証言の全部分が証拠能力や信用性を失うわけではなく、どの部分を信じるかは事実審の合理的な専権事項である。
重要事実
上告人は、原審における事実認定に関し、経験則に反する認定があること、および採証の法則に違反して事実認定が行われたことを主張した。具体的には、証言の一部に客観的事実に符合しない部分があるにもかかわらず、その証言を基礎に事実を認定した点に法令違背があると主張して上告を提起した。
あてはめ
最高裁は、証言の一部が事実に符合しない場合であっても、そのことだけで当然に他の部分が信用できなくなるものではないと判示。証言のどの部分を採用し、どの部分を排斥するかは事実審たる原審の専権に属すると評価した。本件における原審の認定は、経験則に反するものとは認められない。
結論
本件上告は棄却される。証言の一部に誤りがあっても、他の部分の信用性を認めて事実認定を行うことは、事実審の裁量の範囲内であり適法である。
実務上の射程
民事訴訟における自由心証主義(民訴法247条)の範囲を画する基本判例である。答案上は、証拠の評価が不合理であるとの主張に対し、裁判官の専権を強調しつつも、経験則に反しない限り適法であるというロジックで用いる。
事件番号: 昭和28(オ)533 / 裁判年月日: 昭和31年1月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が明示的に事実を主張していない場合であっても、証拠の申出や弁論の全趣旨から、その事実を主張する意思が認められるのであれば、裁判所は当該事実を認定して判決の基礎とすることができる。 第1 事案の概要:上告人が被上告人に対し請求を行った事案において、被上告人は解除権の留保およびこれに基づく契約解…
事件番号: 昭和30(オ)648 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当の理由」の有無は、事実認定の問題であり、原審が証拠に基づいてこれを否定した判断は違法ではない。 第1 事案の概要:上告人の代理人Dが、訴外Eに被上告人を代理して本件土地を売却する権限があるものと信じて取引を行った。上告人は、Dがそのように信じたことについて「正当の理由…
事件番号: 昭和35(オ)341 / 裁判年月日: 昭和35年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、真実発見の要請に基づき、当事者の主張する事実と相容れない事実を認定して当該主張を排斥することができ、これは弁論主義(当事者主義)に反しない。 第1 事案の概要:上告人は、原審においてある事実を主張したが、原判決は被上告人が主張していない事実(上告人の主張と矛盾する事実)を認定し、上告人の…
事件番号: 昭和34(オ)676 / 裁判年月日: 昭和37年3月20日 / 結論: 棄却
不動産の売買契約の代理権の存否が争点となつている事件において、売渡証書の売主(被告)名下の印影が同一の印と一致するかどうかにつき、当事者間に争いがあるのにかかわらず、これを争いなしと判断し、右判断を代理権授与の認定の資料に供した違法があつても、数個のかつ多角的な内容を有する間接事実を採用してこれを代理権授与の認定の資料…
事件番号: 昭和31(オ)470 / 裁判年月日: 昭和32年5月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠の取捨判断およびそれに基づく事実認定は、特段の事情がない限り、原審の専権に属する事項である。本件においても、提出された書証が証人尋問の結果を覆すに足りる反証とならないとした原審の判断に違法はない。 第1 事案の概要:上告人は、本件公正証書の作成前に甲号各証を被上告人に交付したと主張し、それを裏…