判旨
当事者が明示的に事実を主張していない場合であっても、証拠の申出や弁論の全趣旨から、その事実を主張する意思が認められるのであれば、裁判所は当該事実を認定して判決の基礎とすることができる。
問題の所在(論点)
弁論主義が支配する民事訴訟において、当事者が特定の事実(解除権の留保と解除の事実)を明示的に主張していない場合、証言や弁論の全趣旨から当該事実を認定することは、弁論主義の原則に反しないか。
規範
民事訴訟における弁論主義の下では、主要事実は当事者の主張が必要であるが、当事者が特定の法的効果を求めるにあたって前提となる事実関係について、証拠の申出(証人尋問や本人尋問)およびそれに基づく弁論の全趣旨から、黙示的にその事実を主張していると合理的に解釈できる場合には、裁判所はこれを判決の基礎とすることができる。
重要事実
上告人が被上告人に対し請求を行った事案において、被上告人は解除権の留保およびこれに基づく契約解除の事実を明示的に主張していなかった。しかし、原審において被上告人は証人Dの証言および被上告人本人の供述を援用しており、その内容および弁論の全趣旨を総合すると、解除に関する事実を主張する意思があったと認められた。原審はこれを踏まえ、解除の事実を認定して上告人の請求を排斥した。
あてはめ
本件において、被上告人は証人Dの証言や自己の供述を援用しており、これらは解除権の留保および解除の事実を裏付ける内容であった。このような証拠の援用および弁論の全趣旨に照らせば、被上告人は当該事実を主張したものと同視できる。したがって、裁判所がこれらの事実を認定することは、当事者の主張していない事実を基礎とするものではなく、弁論主義に違反しないと解される。
結論
被上告人は解除権の留保と契約解除の事実を主張したものと認められ、原審がこれに基づき請求を排斥した措置に違法はない。
事件番号: 昭和31(オ)858 / 裁判年月日: 昭和33年8月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】当事者が書証を提出し、かつ本人尋問においてその書証の内容に合致する陳述をした場合には、弁論の全趣旨から判断してその事実を主張したものと解するのが相当である。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、上告人(被告)の父との間で本件宅地30坪の売買契約を締結したと主張した。これに対し上告人は契約の存在を…
実務上の射程
本判決は、事実の主張の有無が争われる場面において「弁論の全趣旨」や「証拠の援用」を通じた主張の認定を肯定するものである。実務上は、準備書面で明示されていない事実であっても、証拠調べの結果を援用する形で主張が補完され得ることを示すが、不意打ち防止の観点から、相手方の防御権を侵害しない範囲に限定して理解されるべきである。
事件番号: 昭和33(オ)718 / 裁判年月日: 昭和36年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が主張していない契約条件(代金決済方法等)を認定して売買契約の効力を認めることは、当事者の主張・立証の範囲内であれば弁論主義に反しない。また、特定の買戻し合意や代金決済合意を含む売買契約であっても、直ちに公序良俗に反して無効となるものではない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は上告人(被…
事件番号: 昭和30(オ)573 / 裁判年月日: 昭和31年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証言の一部に事実に符合しない部分があっても、それだけで直ちに他の部分が信用できなくなるものではなく、証拠の採否は事実審の専権に属する。 第1 事案の概要:上告人は、原審における事実認定に関し、経験則に反する認定があること、および採証の法則に違反して事実認定が行われたことを主張した。具体的には、証言…
事件番号: 昭和35(オ)341 / 裁判年月日: 昭和35年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、真実発見の要請に基づき、当事者の主張する事実と相容れない事実を認定して当該主張を排斥することができ、これは弁論主義(当事者主義)に反しない。 第1 事案の概要:上告人は、原審においてある事実を主張したが、原判決は被上告人が主張していない事実(上告人の主張と矛盾する事実)を認定し、上告人の…
事件番号: 昭和33(オ)258 / 裁判年月日: 昭和35年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】原審が行った証拠の取捨選択および事実認定が適法である限り、上告審においてこれと異なる事実を主張して原判決を非難することは、上告理由にならない。 第1 事案の概要:上告人らは、原審が認定した売買の事実について、証拠の取捨選択や事実認定に誤りがあるとして、原判決の違法を主張し、上告を申し立てた。なお、…