判旨
当事者が書証を提出し、かつ本人尋問においてその書証の内容に合致する陳述をした場合には、弁論の全趣旨から判断してその事実を主張したものと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
当事者が特定の事実を法律上の主張として明示していない場合であっても、書証の提出および証拠調べにおける本人の供述があるときに、弁論の全趣旨に基づき当該事実の主張があったと認めることができるか。弁論主義の適用範囲が問題となる。
規範
民事訴訟における弁論主義の下では、裁判所は当事者が主張しない事実を判決の基礎にできない。もっとも、当事者が特定の事実を明示的に主張しなくとも、証拠(書証等)を提出し、かつ本人尋問等においてその内容と符合する供述を行っている場合には、特段の事情がない限り、弁論の全趣旨として当該事実を主張したものと解し、裁判の基礎とすることができる。
重要事実
被上告人(原告)は、上告人(被告)の父との間で本件宅地30坪の売買契約を締結したと主張した。これに対し上告人は契約の存在を否認し、証拠として乙第1号証を提出した。当該書証には「当初の売買契約を合意解除し、改めて土地の半分(15坪)を引き渡す旨の合意をした」との記載があり、上告人本人も原審で同内容の陳述をしていた。しかし、原審は上告人が契約取消(合意解除)の事実を明示的に主張していないとして、これを裁判の基礎としなかった。
あてはめ
本件において、上告人は乙第1号証を提出しており、そこには当初の売買契約を取り消し、別途15坪を譲渡する旨の合意(合意解除と新契約)が記載されていた。さらに、上告人本人が尋問において当該書証の内容と同様の陳述を行っている事実は記録上明らかである。これらの事情を総合すれば、上告人は契約取消の事実を弁論の全趣旨として主張していたものと解するのが相当である。原審が「主張がない」として判断を遺脱したのは、当事者の主張に対する誤解があるといえる。
結論
上告人が契約取消の事実を主張したものと解すべきであり、原判決には判断遺脱の違法がある。原判決を破棄し、差し戻す。
事件番号: 昭和28(オ)533 / 裁判年月日: 昭和31年1月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が明示的に事実を主張していない場合であっても、証拠の申出や弁論の全趣旨から、その事実を主張する意思が認められるのであれば、裁判所は当該事実を認定して判決の基礎とすることができる。 第1 事案の概要:上告人が被上告人に対し請求を行った事案において、被上告人は解除権の留保およびこれに基づく契約解…
実務上の射程
弁論主義における「主張」の有無を柔軟に判断する裁判例。答案上では、主要事実が明示的に主張されていない場合に、証拠提出や陳述から「弁論の全趣旨による主張の補充」を正当化する根拠として活用できる。ただし、何でも認められるわけではなく、相手方の不意打ちにならない範囲(書証提示+本人陳述など)での運用が想定される。
事件番号: 昭和31(オ)788 / 裁判年月日: 昭和33年8月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が認定した事実のうち、主要事実に付加されたに過ぎない事実の認定に違法があったとしても、そのことが主要事実の認定を左右しない限り、判決に影響を及ぼす違法とはならない。 第1 事案の概要:上告人が訴外Dのために本件宅地を借り受ける交渉を被上告人になしたという事実が原審で認定された。上告人はこの事…
事件番号: 昭和33(オ)258 / 裁判年月日: 昭和35年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】原審が行った証拠の取捨選択および事実認定が適法である限り、上告審においてこれと異なる事実を主張して原判決を非難することは、上告理由にならない。 第1 事案の概要:上告人らは、原審が認定した売買の事実について、証拠の取捨選択や事実認定に誤りがあるとして、原判決の違法を主張し、上告を申し立てた。なお、…
事件番号: 昭和38(オ)350 / 裁判年月日: 昭和41年4月12日 / 結論: その他
物件の所有者であることを理由とし、その物件についての所有権移転登記の抹消を求める訴訟において、被告が、抗弁として、原告が甲に対し代物弁済により右物件の所有権を移転した旨を主張したところ、原告から甲への所有権移転を認容したうえ、さらに、原告は甲から右物件を買い戻したが、後にこれを乙に対し譲渡担保として移転し、結局、原告は…
事件番号: 昭和33(オ)718 / 裁判年月日: 昭和36年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が主張していない契約条件(代金決済方法等)を認定して売買契約の効力を認めることは、当事者の主張・立証の範囲内であれば弁論主義に反しない。また、特定の買戻し合意や代金決済合意を含む売買契約であっても、直ちに公序良俗に反して無効となるものではない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は上告人(被…