物件の所有者であることを理由とし、その物件についての所有権移転登記の抹消を求める訴訟において、被告が、抗弁として、原告が甲に対し代物弁済により右物件の所有権を移転した旨を主張したところ、原告から甲への所有権移転を認容したうえ、さらに、原告は甲から右物件を買い戻したが、後にこれを乙に対し譲渡担保として移転し、結局、原告は右物件の所有権を失つた旨を判示して原告の請求を排斥したのは、当事者の主張しない事実を認定した違法がある。
権利移転経過の認定について弁論主義違反の違法があるとされた事例
民訴法186条
判旨
弁論主義の下では、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎として採用することはできず、当事者が主張していない権利喪失事実(買い戻し後の再譲渡)を認定して請求を棄却することは違法である。
問題の所在(論点)
裁判所が、当事者の主張していない「特定の譲渡(売渡担保設定)による所有権喪失」という事実を認定して判決の基礎とすることは、弁論主義に違反するか。
規範
民事訴訟における弁論主義の第一テーゼにより、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることはできない。特に、主要事実(権利の発生、変更、消滅という法律効果を直接発生させる事実)については、当事者による主張を必要とする。
重要事実
上告人(原告)は、本件土地の所有権に基づき、被上告人らに対し代物弁済または売買を原因とする所有権移転登記の抹消を求めた。被上告人(被告)らは、上告人がDに対し代物弁済を行い、その後DからE、さらに被上告人B5へと順次譲渡されたことで上告人は所有権を喪失したと主張した。これに対し原審は、上告人が一旦Dから土地を買い戻した事実を認定した上で、当事者の主張にない「上告人がその後Eから金を借りて本件土地を売渡担保として譲渡し、買戻期間を徒過して所有権を失った」という事実を認定して上告人の請求を棄却した。
事件番号: 昭和38(オ)710 / 裁判年月日: 昭和41年2月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産譲渡の合意の成立が認められない以上、その合意に至る経緯としての周辺事実(賃借権の存在等)について個別に判断を示さなくとも、理由不備や判断遺脱の違法は存しない。 第1 事案の概要:上告人(原告)は、訴外Fとの間で、Fが国から本件土地の払下げを受けることを停止条件として、本件土地を上告人に譲渡す…
あてはめ
原審は、上告人がDから土地を買い戻したと認定しており、この時点では上告人に所有権が帰属していたことになる。その上で、原審が請求を排斥する根拠とした「上告人からEへの売渡担保による譲渡およびその後の所有権喪失」という事実は、抗弁として機能する主要事実である。しかし、この事実は口頭弁論において当事者のいずれからも主張されていない。したがって、原審はこの未主張の事実を判決の基礎として採用しており、弁論主義の原則を逸脱しているといえる。
結論
原判決には当事者の主張しない事実に基づいて判断した違法があり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるため、破棄差戻しを免れない。
実務上の射程
弁論主義(第一テーゼ)の典型的な違反事案として、主要事実(特に権利消滅の抗弁)の主張責任を論じる際に活用できる。判決文で認定された事実が、当事者の主張する法律関係の枠組み(本案)から外れている場合に、理由不備や審理不尽を指摘する文脈でも有用である。
事件番号: 昭和35(オ)1081 / 裁判年月日: 昭和38年3月26日 / 結論: 棄却
民訴法第一八六条所定の申立には、個々の攻撃または防禦方法である主張または抗弁は含まれない。
事件番号: 昭和31(オ)858 / 裁判年月日: 昭和33年8月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】当事者が書証を提出し、かつ本人尋問においてその書証の内容に合致する陳述をした場合には、弁論の全趣旨から判断してその事実を主張したものと解するのが相当である。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、上告人(被告)の父との間で本件宅地30坪の売買契約を締結したと主張した。これに対し上告人は契約の存在を…
事件番号: 昭和36(オ)78 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、相手方が代理権があると信じ、かつ信ずるにつき正当の事由があることを具体的に主張する必要があり、単に代理権があると信じていたという事実の主張のみでは足りない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人B1がB2を代理して消費貸借契約や抵当権設定、代物弁済予約を…