経過縁由事情と判断遺脱の存否
判旨
不動産譲渡の合意の成立が認められない以上、その合意に至る経緯としての周辺事実(賃借権の存在等)について個別に判断を示さなくとも、理由不備や判断遺脱の違法は存しない。
問題の所在(論点)
権利発生の原因たる主要事実(譲渡合意)の成立を否定するに際し、その成立を補強する経過事実(賃借権の有無等)について個別の判断を示さないことが、判決の理由不備または判断遺脱にあたるか。
規範
訴訟において、権利の発生原因となる主要事実(本件では譲渡合意)の存否が争点となる場合、裁判所が証拠に基づき当該主要事実の成立を否定したときは、その成立を推認させるための間接事実や経緯(縁由)に関する主張について個別の判断を明示せずとも、判決に理由不備の違法はない。
重要事実
上告人(原告)は、訴外Fとの間で、Fが国から本件土地の払下げを受けることを停止条件として、本件土地を上告人に譲渡する旨の合意(以下「本件合意」)が成立したと主張した。上告人は、本件合意が成立した背景(経過縁由)として、自らが本件土地の賃借人であった事実等を主張し、条件成就に基づく所有権移転登記抹消手続を求めた。原審は、証人尋問の結果等に基づき、本件合意の成立自体を認定できないとして上告人の請求を棄却した。
あてはめ
上告人は、本件土地の賃借人であったという事実を本件合意成立の「経過縁由」として主張しているに過ぎない。原審は、本件合意の成立を認定するに足りる証拠はないとして、請求の前提となる主要事実を否定する理由を十分に説示している。したがって、主要事実の存否に関する判断の中で右経過事実に言及しなかったとしても、当事者の主張に対する判断を遺脱したものとはいえない。
結論
本件合意に基づく権利取得が認められない以上、その背景事情に判断を示さずとも違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
民事訴訟における理由不備(民訴法312条2項6号)の射程を画する判例である。答案上は、裁判所が主要事実の存否について心証を得た場合、それに反する間接事実等について逐一排斥する理由を述べなくても直ちに違法とはならないことを説明する際に活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)350 / 裁判年月日: 昭和41年4月12日 / 結論: その他
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