不動産の売買契約の代理権の存否が争点となつている事件において、売渡証書の売主(被告)名下の印影が同一の印と一致するかどうかにつき、当事者間に争いがあるのにかかわらず、これを争いなしと判断し、右判断を代理権授与の認定の資料に供した違法があつても、数個のかつ多角的な内容を有する間接事実を採用してこれを代理権授与の認定の資料とし、右争いがないとした事実を除外しても、その余の事実によつて代理権授与の事実を認定できるときは、右違法は判決に影響を及ぼさない。
当事者間に争いのある事実を争いがないと判断した違法が判決に影響を及ぼさないとされた事例
民訴法185条
判旨
判決に影響を及ぼさない事実認定の過誤は、上告理由となる法令の違背には当たらない。また、複数の間接事実に基づき代理権授与の事実を認定する場合、その一部の事実に誤認があっても、他の事実によって認定が維持できるならば、判決の結論に影響しない。
問題の所在(論点)
事実認定の資料とした一部の事実に誤認(争いがある事実を争いがないと誤信した点等)がある場合、そのことが直ちに判決の破棄事由となるか。
規範
事実認定の過誤が上告理由となるためには、その誤りが「判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背」(民事訴訟法旧401条、現312条等参照)に該当することを要する。証拠評価や事実認定に一部違法があっても、他の証拠や間接事実等に照らして結論が維持できる場合には、判決を破棄すべき理由とはならない。
重要事実
訴外Dが上告人名義で本件土地家屋の売買契約を締結した際、上告人から代理権の授与があったか否かが争われた。原審は、売渡証書上の印影が上告人のものと一致することについて「当事者間に争いがない」として代理権を認定したが、実際には上告人は当該書面の成立を否認していた。また、上告人が売買代金を他債務の返済に充てた可能性や、印鑑証明書の更新に関する約定の存否等も争点となった。
事件番号: 昭和31(オ)788 / 裁判年月日: 昭和33年8月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が認定した事実のうち、主要事実に付加されたに過ぎない事実の認定に違法があったとしても、そのことが主要事実の認定を左右しない限り、判決に影響を及ぼす違法とはならない。 第1 事案の概要:上告人が訴外Dのために本件宅地を借り受ける交渉を被上告人になしたという事実が原審で認定された。上告人はこの事…
あてはめ
原審が、印影の一致を「争いがない」とした事実は誤認であり、これを認定資料とした点には違法がある。しかし、原審は他にも「数個かつ多角的な内容を有する間接事実」を挙げて代理権を認定している。具体的には、売買契約後に上告人自身が被上告人に印鑑証明を交付した等の事実が確定されている。これらの事実を総合すれば、誤認された事実を除外しても代理権授与の認定は十分に維持できるため、右の違法は判決に影響を及ぼさない。
結論
本件上告を棄却する。一部の事実認定に誤りがあっても、他の事実により代理権授与の結論が導かれる以上、判決に影響を及ぼす法令違背には当たらない。
実務上の射程
民事訴訟における「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背」の意義を示す。複数の間接事実から主要事実を推認するプロセスにおいて、一部の推認資料が欠けても結論が揺るがない場合の判断手法として、判決理由の不備や事実誤認を主張する際の反論として有用である。
事件番号: 昭和30(オ)573 / 裁判年月日: 昭和31年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証言の一部に事実に符合しない部分があっても、それだけで直ちに他の部分が信用できなくなるものではなく、証拠の採否は事実審の専権に属する。 第1 事案の概要:上告人は、原審における事実認定に関し、経験則に反する認定があること、および採証の法則に違反して事実認定が行われたことを主張した。具体的には、証言…
事件番号: 昭和30(オ)648 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当の理由」の有無は、事実認定の問題であり、原審が証拠に基づいてこれを否定した判断は違法ではない。 第1 事案の概要:上告人の代理人Dが、訴外Eに被上告人を代理して本件土地を売却する権限があるものと信じて取引を行った。上告人は、Dがそのように信じたことについて「正当の理由…
事件番号: 昭和34(オ)343 / 裁判年月日: 昭和36年7月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理人として売買契約等の交渉に当たった者が、真の買受人であるか、それとも本人の代理人として行動したに過ぎないかは、証拠を総合して判断される事実認定の問題である。本判決は、交渉の衝に当たった事実があるからといって直ちにその者を真の権利者と認めることはできないとした。 第1 事案の概要:第一審参加人E…
事件番号: 昭和32(オ)612 / 裁判年月日: 昭和36年6月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法94条2項の適用における善意・無過失の要否について、原審が認定した事実に基づき、相手方が善意かつ無過失であれば保護されることを前提に上告を棄却した。 第1 事案の概要:上告人が、被上告人に対し、何らかの権利関係(詳細は判決文からは不明)につき虚偽の表示や悪意の存在を主張して争った事案。原審は、…